Interview_taniyama of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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谷山雅計(コピーライター)

【コピーライターを目指すきっかけ】
望月:元々は東大にお進みになられたんですね。そこからコピーライターを目指していたんですか?

谷山:そうです。漠然と何かものを作る人になりたいなとは思っていたんですね。ちなみに一番最初思ったのは、5歳の時にウルトラマンを作る人になりたいなと思った事でして(笑)。自慢でも何でもないんですが、普通の5歳って、ウルトラマンに「なりたい」って思うじゃないですか。でも、僕は5歳ぐらいの時に「このウルトラマンという面白い番組を作っている奴がいるはずだ。僕はこのウルトラマンという番組を作る人になりたい」と思ったんです。
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望月:夢があるんだか無いんだか分からないですね(笑)

谷山:妙に現実的だったのかもしれないです(笑)。だから、漠然と何かものを作りたいなというのはずっと思っていたんですけど、これだ!というのは無かったですね。20歳の時に、今でも有名ですけど糸井重里さんという存在があったんです。今の人達の間では、糸井重里さんと言うとインターネットの「ほぼ日」の人って感じで、あとはバス釣りをしてる人みたいな感じなのかもしれないですけど、糸井さんと言うとコピーライターの神様なんですよ。

望月:そうですよね。

谷山:本当に僕にとって(糸井さんは)神様で。その存在を20歳の時に知ったんです。勿論、コピーも凄いなと思ったんです。「不思議、大好き」「おいしい生活」(共に西武百貨店)とかね。でも、それ以上に糸井さんが色々なところで書いている文章に衝撃を受けたんです。糸井さんの書くものって、世の中の色々なことを「これはこういう物の見方をしたら、こんなに良いところがあるじゃないか」とか「皆は(この物を)低く見ているかもしれないけれど、こんな風に見てみるとこんなに良いんだよ」というような、良いところを見つけていく知性があったんですよ。それまでの僕って高校大学で斜に構えた奴で、頭が良いってことは何かを批評したり批判したりということなのかなと思っていたんです。でも糸井さんの文章を読むと、そういった頭の良さとは違う色々な物を認めたり、拾い上げていくというような知性があって「こういうのって気持ちいいなあ」と思ったんです。それぐらい僕にとって糸井さんの存在は衝撃的だったんです。広告の仕事をしているからこそ(糸井さんは)そういった物の考え方をするのかなって思って。そこでいきなり糸井さんのようにはなれないにしても、糸井さんと同じような仕事がしてみたいなと思ってコピーライターを目指したんです。

【広告代理店への入社】
望月:まずは代理店に入ろうと考えたんですか?

谷山:そうなんです。糸井さんはフリーな訳で、その点僕は小心者だったというか(笑)。「糸井さんのようにフリーでやる!」と言っても、何も無い奴がいきなりフリーになっても仕方ないわけで。そこで僕は広告代理店の博報堂に入ろうと思って、入ったんです。

望月:電通ではないんですね。

谷山:そうなんですよ(笑)。普通は電通だろ!って話ではあるんですけど。とりあえず、電通と博報堂は知ってるなと思って。その時、博報堂には眞木準さんという二年ぐらい前にお亡くなりになられた眞木準さんという名コピーライターの方がいたんです。「でっかいどう北海道」とか「恋を何年休んでますか?」とか、素晴らしいコピーを何本もお書きになった方なんですが。だから、「知っているコピーライターの人がいるな。よし、博報堂だ!」とそこはあまり考えずに決めて、受けたということなんです。

望月:そして、見事に博報堂に入られたんですね。他にも何社か受けてはいたんですか?

谷山:このような事を言うと今は就職が厳しい事もあって凄く嫌われるのですが、「この会社に入るぞ!」と思って1社しか受けなかったんです。それで受かったと。舐めてますよね(笑)。

望月:すごいですね。落ちる気がしなかったという感じですか?

谷山:今は僕も色々世の中の厳しさとかも分かって、人間丸くなってきましたけど、その頃は「俺を落とすわけ無いだろう」と思っていて。「俺より面白い奴、そんなに見つかんないだろう」と言うような強気の姿勢で就職に臨んでいたんです。昔の就職って、今ほど過熱していなかったと思うんです。だって、大学4年生の10月になってやっと受けに行くというような、そんな時代ですから。そこまで色々な情報も流れていなかったですし、あまり世の中の事が分かっていない勘違い野郎でも突破出来るようなのどかな時代でしたね。そんな時代を変えたのは、僕の博報堂の同期の中谷彰宏じゃないでしょうか(笑)。彼は博報堂の同期だったんですけど、あいつが「面接の達人」とかそんな本を書くから、時代が変わってしまった(笑)。(「面接の達人」は)大ヒット作だし、すごいなとは思いますけどね。あいつは三年ぐらいで博報堂を辞めて、あっちの道に行ったんです。ただ、(僕は)面接の達人以前の時代だったから(笑)。だから就職ものどかにやっていて、ラッキーだったと思います。

【駆け出しの頃の話】
望月:入社はクリエイティブ採用の枠だったんですか?
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谷山:いえ、違うんですよ。一般採用の中でクリエイティブの試験をやって、という。今でも代理店ってそうだと思うんですけど、意外と一般採用の試験をやった後のクリエイティブの試験って一発勝負なんですよね。3つぐらい問題を出してわぁっとやって、選ばれたという。

望月:実際入ってみてどうでしたか?夢描いていたコピーを書けるという段になって。

谷山:そんなに何かギャップを感じたりとか、こんなはずじゃなかった!というようなことを思ったことは無かったです。結構思っていた通りの仕事だったし、楽しいなあと思いました。ただ後になってから分かったんですけど、広告って結局どんなに考えても採用されない事の方が多いじゃないですか。どんなに考えても実現しない事の方が多いし、商品開発だって、僕もTSUBAKIとかFOGBARとか色々な物に携わらせて頂きましたけど、出来た物だけを見ればあれですけどその裏には途中に消えた物がとてつもなく沢山ある訳じゃないですか。でも、最初はそれが分からないから、考えたらすぐに世の中に出ると思っていたんです。だから最初の二年間ぐらいは立ち消えになる仕事も多くて、俺だけ物凄く運が悪くてアンラッキーなんじゃないだろうかとか考えてちょっと凹んだ時期は一時期ありました。今考えるとそんなことは無かったわけで(笑)。(広告というのは)考えて考えて考えてやっと出てくる仕事なんだというのは分かっていますけどね。

望月:先輩や上司の人はどうでしたか?厳しかったですか?

谷山:いや、あまり厳しい先輩に付いたということは無かったですね。ただ、その代わりと言うのも変なんですけど、4年先輩のアートディレクターでクリエイティブディレクターの大貫卓也さんというスーパースターがいまして、その方と仕事をする事が多くて、(僕は)コピーライターなんですけど、広告の事はその方から教わったなという気がしますね。

【楽曲紹介1:思い出の広告ソング】
望月:この辺で一曲ご紹介いただきたいと思うんですけれども、「思い出の広告ソング」ということで。どのような曲を?

谷山:10年前、15年前ぐらいの曲ですかね?日光江戸村のCMソングです。にゃんまげというキャラクターがいますけど。

望月:いましたね!

谷山:最近また出てきてますよね。グリコのCMにゲスト出演してたりとか。佐野研二郎くんの考えたキャラクターなんですけど。そこで「にゃんまげに飛びつこう」というCMソングを。このCMソングが僕はすごく好きなんです。

#1 「にゃんまげに飛びつこう」


望月:笑ってしまいますね(笑)。

谷山:シンプルな曲でしたね。

望月:にゃんまげは今の子で言う「ゆるキャラ」の元祖的な存在なんですかね?

谷山:その通りで、確かに元祖的な存在なんです。(にゃんまげを作った)佐野研二郎くんはとても優秀なADなんですけど、彼の作るキャラクターはとても素晴らしいと思います。この曲を選んだ理由はですね、「にゃんまげに飛びつこう」というフレーズです。このフレーズって、本当にすごいキャッチコピーだと思うんですよ。コピーって、カッコイイ名言みたいなものとか人生に浸みる名言のようなものだと思われている方も多いような気がしていて。実際にそういったコピーも存在するんですよ。でも、コピーの本来の姿って「機能する言葉」「はたらく言葉」なんですよ。そう考えた時に、「にゃんまげに飛びつこう」ってとんでもなくはたらいている言葉だと思うんです。「にゃんまげに飛びつこう」って、普通のコピーライターだったら「にゃんまげに会いに行こう」って書く言葉なんですよ。でも、それだとあんまり会いに行きたくはならない。でも「にゃんまげに飛びつこう」となると、子供たちがにゃんまげにぴょーんって飛びついて抱きしめるという、その楽しさがすごく伝わってくるんですね。実際、子供たちがにゃんまげに飛びつきすぎて、にゃんまげの中野人が大変だとちょっと問題にもなったくらいなんです。

望月:ありましたね。CMもにゃんまげに飛びつくCMだったんですよね。

谷山:ええ。これはすごい知恵だと思いました。僕は「にゃんまげに会いに行こう」と「にゃんまげに飛びつこう」の間には何十億光年級の機能としての差があると思いますね。こういった言葉を考えることこそが、広告屋さんの仕事の本質なんじゃないかなあと思うんで。良く考えたら、誰にでも考えられそうな言葉じゃないですか。子供が偶然言うかもしれない言葉じゃないですか。でも、それが(言葉として)機能するんだという確信を持って選んでコピーにする。僕では無くて、他の方の仕事なんですけれど、すごくリスペクトする仕事です。

【コピーライターの仕事とは】
望月:コピーライターの仕事って、すごく短いセンテンスの言葉を書いてるだけじゃないかと思われがちじゃないですか。

谷山:すごく楽な仕事で、その上ちゃらちゃらしやがってとかね。そんな風に思われがちですよ。

望月:谷山さんは、特に(言葉を)ものすごく短くしてますよね。

谷山:短くしてますよ。「でしょ」なんてものもありますし「Yonda?」も短いですし、「日テレ営業中」なんて、日テレに「営業中」を付けただけじゃないかという(笑)。実際ね、結果として出てくるのはそんなものだったりするんです。でも、その一個の言葉を考えるまでに、時には200から300、もっと多いかなというぐらいの案を考えて検証すると言う事をしますし、もっと言うとコピーライターは言葉を考えるだけでは無いということなんです。言葉を考えるのは勿論大事な仕事なんですけど、もっと大事なのは企業や商品の持つ課題を解決するためにどんな知恵を編み出せばいいのかということです。その課題を解決するためには、時には言葉じゃなくてキャンペーンの仕組みの時もあれば、商品から作ろうという時もあるし。コピーライターであってもデザインのアイデアを考えたりすることもあります。コピーライターというのは皆のイメージと違って、実は広告の知恵に関する何でも屋さんです。時には広告だけではなくて、企業や商品の知恵を考えたり。だから、良い事考えるアイデアマンみたいなものなんです。

【伝わるキャンペーンとは】
望月:谷山さんがこれまでお仕事をされてきた中で、「これはすごく伝わったな」って思ったキャンペーンはどんなものですか?

谷山:勿論、どのキャンペーンも(広告主に)お金を出してもらったら、そのお金分は伝えなくてはいけないという義務があるんですよ。

望月:先ほど挙げてもらったキャンペーンもすべて伝えてはいるわけですよね。

谷山:ただ、そのお金分だけ伝えるというのでは実はあまり(キャンペーンとして)成功しているとは言えなくて。その二倍三倍の効果があって、初めて成功したと言えるんです。現金輸送車なんだけど、そのお金を運んでいる最中にお金が増えているみたいな(笑)。それぐらいのことをしないと駄目なわけです。そういった意味では、小さなキャンペーンで昔の仕事なんですけど、大阪だけで展開したJR東海のキャンペーンで「消えたカニ道楽」という仕事が僕がやった仕事の中では印象に残っていて。大阪にはカニ道楽という動く大きなカニの看板があるんですよ。そいつが東京とか静岡とかいろいろなところに旅行に行きますよ、っていうキャンペーンだったんです。そのキャンペーンは単に広告を打つだけではなくて、その広告を展開している間、カニ道楽の看板を掲げているお店からカニ道楽を消しちゃったんです。

望月:カニ道楽取っちゃったんですか?

谷山:取っちゃったんです(笑)。三週間ぐらい取ったままにして、代わりに「JR東海のTVCMに出演中」という垂れ幕をしておいたんです(笑)。そしたら、それだけで結構な話題になりまして。

望月:カニ道楽って大阪人にとって命みたいなものですよね。

谷山:流石に命かどうかは分からないですけど(笑)。でも、間違いなく自分たちにとってのシンボルなわけです。それが一体どこに行ってしまったんだと。「どこ行ったんや!?」と話題になりまして。

望月:今で言うバイラル的な手法ですよね。
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谷山:僕は最近その言葉を知ったんです(笑)。バズとかバイラルとか新しい言葉で、全然知らなかったんですよ。僕はコピーライターなんですけど、キャッチフレーズだけじゃなくて色々な伝え方があるなって時に、広告と現実を連動させたら何か面白いことが起きるんじゃないかなって思ったんですよね。それが皆に伝わった時に、快感を覚えましたね。大阪の人ってツッコミ好きなんですよね。カニ道楽を外す作業をしている横で、通る人通る人が皆「おい、カニどこ行くんだ!?」とツッコミをしてくるんですよ(笑)。単に外しているだけの段階なのに。そこで、「あ、これは絶対(キャンペーンは)話題になるな」と確信を持つことができたんですよね。勿論、キャッチコピーだけでも伝わるものもあれば、ヴィジュアルだけで伝わるものもあるし、キャラクターで伝わるものもあったりと色々あるんですけど、20年前に「仕組みで伝える」っていうこともあるんだなというのが自分なりに掴めたということは財産だったなという気がしています。

【広告の仕事に対するスタンスの話】
望月:言葉にしてもキャンペーンにしても、広告というものへのこだわりはありますか?

谷山:広告をする時には、広告という枠にこだわってるとは言えると思います。ただ、自分自身で何かをやるというときには広告だけじゃなくてもいいのかなと思います。自分は広告の仕事が好きでコピーも大好きで色々書いているんですけど、そこまで「これしかない!」とか「この表現形式に賭ける」というのは無くて、自分がやれる事の中で一番周りの人が喜んでくれることや「谷山がこれやってくれたら、本当に助かるなあ」と言ってもらえるような事をやりたいんですよ。20歳の時にコピーライターになりたいと思った時も、勿論糸井さんに憧れたというのもあるんですけど、心の中で「自分はこれをやったら皆に喜んでもらえるんじゃないかな」と確信していた部分があったんじゃないかなとも思います。

望月:すると広告が好きで好きでしょうがないというのとも違うんですね。

谷山:いや、好きは好きなんですよ(笑)。ただ、仮に「広告やコピーを考えるよりも、俺は料理を作った方が周りの皆に喜んでもらえるな」と本当に確信する事が出来たら、明日からでも料理人になりたいと思いますね。なることが出来るかどうかは分からないですけどね。僕は落語ファンなんですけど、落語話した方が喜ばれると思ったら、49歳から出来るかどうかは分からないですけど修行したいなあと思いますね。ただ、そう思ってもどうも今のところ広告やコピーを考える以上に喜ばれることというのが見つからないんで、仕方なくというわけでもないんですけど、俺に求められているのは広告を作ったり、コピーを書くことなのかなという気持ちでやっていますね。

望月:何で谷山さんのコピーが求められていると思いますか?

谷山:うーん、なんでなんだろうな(笑)。あまり本質的なことを聞かないでください!僕は世の中の3つの立場の人を満足させないと気が済まないんですよ。3つの内の1つはお金を払っているクライアント。1つはそんなことは関係なくて、楽しかったり面白かったりすればいいという人です。もう1つは僕に仕事を頼んでくれる、例えば電通や博報堂の人です。基本的にはこの3者が皆満足してくれないと、楽しくないんですよ。本当は4つ目に自分というのがあって、この四者を皆満足させたいと思っていたんですけど、仕事をしていくうちに他の3者が楽しくないのに自分だけ楽しいということが無いと言うのに気がついて。だから、自分は外していいんだと言うのに気が付いたんです。だから、他の3つを全部喜ばせるのが僕の目標です。せめて3つの内の2つは喜ばせないと駄目です。3者の内、1者だけだったら失敗ですよね。ここも喜ばせたい、ここも喜ばせたい、ここも喜ばせたいという気持ちがあるからこの仕事をやっているんだろうし、僕に仕事を頼んでくれるのかなと思いますね。
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望月:自分の中で(仕事に対して)ハードルを上げているということなんでしょうね。

谷山:大貫卓也さんと新人の時から一緒に仕事をしていたでしょう。一番最初に一番高いハードルを経験したので、これはすごく自分にとってありがたいことだったんですよ。そこから、どんなに面倒臭かったり大変な仕事でもそれに比べたら余裕というか(笑)。それが当たり前という気持ちになってしまっているんです。

望月:(大貫卓也さんは)厳しい人でしたか?

谷山:厳しいは厳しいですよ。ただ、理不尽に厳しいと言うのは無くて。物事の「面白い」ということに対するハードルとか、何故この商品に対してこのアイデアなのかという理由であるとか、そういったところに対してものすごく高いレベルを持っていた人でした。やはり、人に教わるとか教えると言った時にハードルを上げることはすごく大切なんですよね。最初に低いハードルを設定して、それに慣れてから高いハードルに上げても、それを越えられないんで。そういった意味でも、最初に高いハードルを設定して「こういうものなんだな」って思っておくと言うのは自分にとっては良かったですね。

【独立について】
望月:博報堂を1997年に退社されるわけですけれど、これは独立をしたいという気持ちが湧いてきてのことですか?

谷山:そうですね。やはり最初に糸井さんに憧れていて、その糸井さんがフリーだったわけですから純粋な(独立への)憧れはありました。やっぱフリーってカッコイイなとか、ひょっとして女優さんと結婚出来たりなんかして……というような(笑)。

望月:はははは(笑)。

谷山:フリーになる前に結婚しましたけどね(笑)。まあちょっとカッコつけたことを言うと、博報堂に13年居て本当に楽しかったし、その間は本当に一生懸命やっていたつもりではあったんですよ。でも12年目や13年目になってくると、どんなに頑張っているつもりでも1年目や2年目の自分の頑張りには負けているんじゃないかなと思うようになったんですよ。やっぱコピーライターの1年目や2年目って、自分で言うのもおかしいですけど変でした。毎晩100本も200本もコピーを書いていても平気でしたし、デートとかどうでもよくて、土日だろうが書くみたいな感じで。それが12年目や13年目になってくると、その頃の頑張りに負けているなと。そこで、もう一度1年目になってみるのも良いんじゃないかと。フリーでもう一度1年目になったら、その頃の頑張りというのがまた自分の心の中に戻ってくるんじゃないかなという気持ちがありました。で、実際フリーになってからの1年目や2年目というのは頑張りすぎてしまって、このままやってたら死ぬなというような感じでした(笑)。そこで仕事を途中から減らしました。

望月:その頃のヒット作というのはどういったものですか?

谷山:「日テレ営業中」とかですかね。あと、今でも続いてますけど「Yonda?」というのは僕がフリーになって一番最初に書いたコピーなんですよ。

望月:そうなんですか!

谷山:「Yonda?」の前の新潮文庫のコピーって、ずっと糸井さんが書いていらっしゃって「想像力と数百円」という僕の大好きなコピーがあったんです。そして、糸井さんに代わって大貫さんがやることになった時に大貫さんに「谷山、一緒にやらないか」と言われてやることになったんです。そのことがフリーになるという気持ちを後押ししたところもあるんですよ。糸井さんに憧れてコピーライターになって、糸井さんと同じようにフリーになることを考えている時に、糸井さんの次の仕事が出来ると言う。これは今は頑張らなくちゃいけないんじゃないだろうかというね。実は大貫さんは「バイトでやらないか?」って電話を掛けてきたんですね。でも、僕は当時まだ博報堂に居たんでバイトでは出来ないわけです。でも、博報堂を辞めようかどうしようかという時期ではあったので「実は博報堂を辞めようかどうか迷っているんです」と話したんです。そしたら「それは好都合」と言われたんですよ(笑)。それが最終的に博報堂を辞める理由にはなったかもしれないです。

望月:そうして書いたコピーが前者を超えたんですね。
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谷山:いや、超えてはいないですよ。「想像力と数百円」というコピーが素晴らしすぎるコピーだったので、それとは全然違うアプローチのコピーにしようと思って。未だに「想像力と数百円」というコピーは、あらゆるコピーの中でも自分の中で大好きな3本の内の1本に入るんじゃないかなと思ってます。

【楽曲紹介2】
望月:このあたりで曲紹介をお願いします。結構音楽も好きだと言うことで。

谷山:ブラックミュージックばっかり聴いてますね。そんなにマニアックなものでは無いんですけど、カニエ・ウェストとかナズとか……ナズは古いですかね?(笑)。僕が15歳ぐらいの頃が、ちょうど一番初めのヒップホップが出来た時代だったんですよ。だからオールドスクール中のオールドスクールを聴いていて。R&Bなんかも含め、(ブラックミュージックは)好きですね。

望月:その中で、今回ご紹介頂ける曲はどのようなものですか?

谷山:実は古いヒップホップを紹介しようかと思っていたんです。でも、ちょっと気持ちを変えまして。誰でも知っている有名なマーヴィン・ゲイが誰でも知っているアメリカ国歌「Star Spangled Banner」を歌っているんですね。1980年ごろのNBAのバスケットボールのオールスター戦の途中に歌ったライブ盤でして、ものすごく特殊なアレンジなんですけど、ものすごく大好きですね。

#2 マーヴィン・ゲイ「Star Spangled Banner」

【考えるとはどういうことか】
望月:最近、学生さんなどをお教えになる機会が多いとのことですが。

谷山:ええ。結構昔から(学生を)教えてまして。最初にコピーを教え始めたのは27歳の時なんですよ。コピーを教え始めてから22年か23年ぐらいになりますね。割と教えるのは好きなんですよね。

望月:書くことと教える事の違いというのは何ですか?

谷山:そんなに違うと言うことは無いです。そんなにひらめきがあるというようなタイプでは(僕は)無くて。順序立てて、料理のレシピを作っていくように(コピーを)書いているタイプなんです。このように順序立ててコピーを書いているんだよというような事を人に伝える事も好きというような感じです。
望月:企業の課題があって、それを咀嚼して言葉に流すまでの思考のステップですか?
谷山:ええ。毎回必ずそれをやれば上手く行きますよというものではないんですけど、基本的には何種類か、何百種類かもしれないですけど思考の道順というのがあって。コピーを書くにしても、何となく書きましたというのではなくて「こういう風に考えて、こうやって書きました」というのを自分なりに意識していくと、繰り返す事が出来るんです。偶然ではなく、あるレベルの物を繰り返し書く事が出来るんで、その部分についてはしっかり教えたいなと思ってます。

望月:ある種、谷山メソッド的なものですか?

谷山:谷山メソッドと呼べるかは分からないですけどね。

望月:その通りにやれば80点は取れると言うような。
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谷山:いや、(80点は)取れないです。技術とか方法論が分かっても、根本的な思考力が無いと良いものって作れないですよ。スポーツに例えると分かりやすいと思うんですけど、例えば野球の内角の難しい球の打ち方というのは説明は出来るんですよ。膝と肘をたたんでくるっと回るように打てばいいと説明は出来るんですけど、もしも僕がその説明の通りにやったとしてもホームランを打つ事は出来ないです。何故なら根本的な筋力とか腰の力とか体力とかがスポーツ選手レベルでは無いからホームランを打つ事は出来ないんです。コピーも同じで、コピーにも技術的に説明出来る部分はあるんだけれど、その根本の地頭の力というのをしっかりと鍛えておかないと良い物を書くことはできないわけですよ。物を考える地頭の力というのは、こういう風に鍛えていけばこういう風に地頭の力を付けていく事が出来ますよという関連方法を話す事は出来ても一言何かを言えばぱあっと身に付くと言う物では無いんですよ。逆に地頭が出来ている人であれば、僕がちょっと教えれば書く事が出来るようになります。でも地頭が出来ていない人であれば、僕はトレーニングの方法を教えることはできますけど、そのトレーニングというのを何年も続けてもらわないとそこまではいかないかもしれない。

望月:何年かかるかは別として、トレーニングをすればそれなりのレベルにはいきますか?

谷山:それなりのレベルにはいくと思います。ただ、元々苦手な人が何年も時間を掛けてそれなりのレベルになるぐらいだったら、もっと得意なことをやった方が良いんじゃないかな(笑)。ただ、どんな人でもトレーニングをすればそれなりのレベルにはなると思います。僕はある本の中で「なんか良いよね禁止法」というトレーニング方法を紹介していまして。世の中の人って何か物を見た時に「なんか良いよね」とか言うわけですけど、そこで「なんか良いよね」で止まらずに「何故良いのか?それはここが良いからだ」というのを一々考えていってくれと。そこで、これこれこうだからここが良いよねと言うのを積み上げていくことで、どんな人でも思考能力が「なんか良いよね」で止まっていた時に比べたら上がっていると思うんです。基本的にはそういったことの積み重ねでどんな人でも思考能力を上げる事が出来ると思います。

望月:谷山さんは本を書かれていまして。タイトルが「広告コピーってこう書くんだ!読本」と。
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谷山:3年ほど前に出た本なんですけど、今度9刷が出ます。売れてるらしいので、是非読んでもらえると。

望月:コピーライターを目指す学生の方には、是非。

谷山:こういったタイトルの本なんですけど、実はコピーライターを目指す方以外の人にも全然読んでもらえる本だと思います。「物を考えるってどういったことなんだろう?」とか、「何となくでは無くて、意識的に物を見る」ということで自分の考える力を伸ばすと言うことに関して自分では具体的に物を書く事が出来たと思ってまして。先程紹介して頂いた自分の色々な仕事と比較しても一番優れた仕事がこの本を書いた事です。自身あります。

望月:必読ですね!

谷山:どうぞよろしくお願いします(笑)。

【今後の仕事について】
望月:これから谷山さんはやっていきたい仕事とかってありますか?

谷山:コピーに限らず、人に喜んでもらえる仕事をやっていきたいという点では、「これをやれば喜んでもらえるんだ!」ということを自分で見つけることが出来たらそっちに行っちゃいたいなという気持ちはあるんです。でも、中々見つからないんですよね。だから、どうしようかなと思ってまして。そんな中でふと思うのが、僕は中々すごい人と仕事をしたり会ったりをしているということで。例えば糸井さんとか最初の師匠の大貫さんとか、正直言いますと図抜けてすごいんですよ。天野祐吉さんが糸井さんと大貫さんのどちらかが戦後最大のクリエイターだと言うぐらいで。だから、そういった人達と自分を比較すると自分はあそこまでの人間では無いなと思うんです。分かってしまっている以上、そうでない人間はしぶとくやり続けるしかないんじゃないだろうかという気持ちもあるんです。何かというとスポーツの話題になってしまって申し訳のないオヤジなんですけど(笑)、王や長嶋やイチローになれない人間は、衣笠や最近だと金本のように連続試合出場を頑張るんですよ。衣笠も金本も十分にすごいんですけどね。要するに頂点までいけないのならば、ある一定レベルをどこまでしぶとく保っていけるかっていうのも良いのかなって思うんです。だからそんな風にしていこうかなとも思うんですが、明日何かを見つけるのかもしれない(笑)。本当に落語をしようかな(笑)。興味が無いわけじゃないんですよ。政治だって興味が無いわけじゃないですし。コピーライターで49歳って年寄りなんですよ。でも政治家で49歳って若いですよね。若い年齢で(政界に)入れるかと思うと、ふっと興味が湧いたりもするんです。でも絶対やらないですけどね(笑)。本当に皆さまに教えて頂きたいです。俺は何をやればいいのかと。

望月:そこは是非是非今後も素晴らしいコピーを書き続けて頂きたいです(笑)。

谷山:そうですね。そこがひとまず一番出来ることだと思うので、頑張って良いコピー書きます。

望月:本日のツタワリストは、コピーライターの谷山雅計さんでした。有難うございました。

谷山:おつかれさまでした。
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