Interview_shima of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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嶋浩一郎 (クリエイティブ・ディレクター/編集者)

【ハガキ職人だった中学時代】
望月:元々はラジオがお好きだったそうですね。

嶋:ラジオに出れるなんて、嬉しくて心が高まりますね。スタジオの独特な雰囲気がたまらないです(笑)。僕は中学生の頃はハガキ職人だったんです。
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望月:するとオールナイトニッポンにハガキを送ったりしていたんですか?

嶋:月曜日の中島みゆきさんから、木曜日のビートたけしさんまでしっかりと(笑)その頃、毎日読まれる職人はキング扱いだったんですよ。

望月:ハガキは採用されましたか?

嶋:それなりには読まれましたね。当時、中島みゆきさんが「面白いハガキをくれた人には、握手券をプレゼントします」と言っていたんですけど、僕はその握手券がどうしても欲しくて(笑)結局、握手券は
貰えませんでした。

望月:昔から、ラジオのようなメディアには興味がお有りだったんですね。

嶋:小学校高学年の頃から、ずっとラジオ好きでしたね。あと、雑誌が物凄く好きで「anan」や「Olive」を読む不思議な中学生でした(笑)

望月:「anan」や「Olive」を読む男子中学生というのは確かに不思議ですね(笑)どういう視点で読んでいたんですか?

嶋:誌面に雑貨や文房具が載ってるのが好きだったんです。「こういうの使ってみたいなあ」と思って読んでましたね。

【大学時代】
望月:大学時代はどんな風に過ごされていたんですか?

嶋:映画を沢山見てましたね。特に日本映画が好きで、小津安二郎溝口健二の作品をビデオで借りたり、映画館で観たりしていました。あと、その頃はどうも他人と違った事がやりたかったみたいで大学4年から5年にかけてイスラエルに留学して、エルサレムに住んでいました。

#小津安二郎          #溝口健二
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望月:イスラエルですか!それは特殊な経験ですね。

嶋:まず他の人が行かなそうな所に、わざわざ行ったんです(笑)

【博報堂入社】
望月:大学卒業後は、博報堂に入られたんですね。

嶋:元々は大学院に残って、研究を続けようかと思っていたんです。でも「働くのも楽しいかもしれないな」と思い始め、出版社やテレビ局や広告会社を色々受けているうちに「博報堂は良いな」と思うようになったんです。

望月:最初に配属された先が「コーポレートコミュニケーション局」という部署だったそうですが、具体的にどのようなお仕事をされたのですか?

嶋:簡単に言うとPRです。企業や商品の情報をメディアの方に取り上げてもらい、テレビや雑誌の中で紹介をして頂く上で、そのサポートをしていく仕事になります。色々と仕事はあるのですが、例えばメディアの方に送付するプレスリリースは死ぬほどたくさん書きましたし、記者会見のセッティングもしましたし、ワイドショーでよく見るような芸能人の囲み取材に対して「質問はこれで終了です!」と会場を仕切る仕事なんかもしましたね。

望月:直接メディアの方と話をすることも多かったのですか?

嶋:メディアの方との連絡はPR会社さんにお願いすることもありましたが、僕は自分で回るのが好きでした。「こんな新商品が出たので是非取り上げてください」と色々な出版社さんを回りましたし、勝手に編集長さんに電話でアポを取って直接会いに行ったりもしましたね。

望月:実際回ってみて、どうでしたか?

嶋:僕はマニアックなくらい雑誌を沢山読んでいたので「そんなところまで読んでいる人がいるのか!」というような反応でした(笑)そういったところをきっかけに、結構可愛がってもらうことが出来ました。当時の編集長さんには実際に色々な商品を取り上げてもらったりもして、とてもお世話になりましたね。

【スターバックスに新聞を置く】
望月:嶋さんは一時期、朝日新聞に出向されていたんですね。

嶋:2000年から2001年にかけて、朝日新聞に出向していました。元々は「若い人たちに新聞が売れなくなってきている現状にどう対処するか」というお題があったんです。この手の課題に対して、普通の広告屋さんは「新聞を売るための広告を出そう」と考えて、クリエイティブの提案をすると思うんです。
でも僕は「日本のスターバックスに朝日新聞を置けないか?」という事を考えて、提案をしたんです。アメリカのスターバックスはニューヨークタイムズと提携して、全店にニューヨークタイムズを置いているんです。コーヒーを飲みながら、新聞が読めるというのは良い文化ですよね。朝日新聞はニューヨークタイムズと提携しているので、日本のスターバックスに朝日新聞が置いてあっても良いはずだと僕は思って、実際にアメリカのスターバックスに対して、日本法人を通して「日本のスターバックスに朝日新聞を置いても良いか」という事を交渉しました。そうして向うからOKが出まして、スターバックスに新聞が置ける事になりました。そこで朝日新聞では若者向けの新聞を作る事になり、僕も朝日新聞に一年間出向することになったんです。

望月:その新聞は、何という名前だったんですか?

嶋:「セブン」という名前の新聞でした。週刊で出していたので「セブン」と。「セブン」っていう名前は、何だか響きがいいですよね(笑)

望月:「セブン」。確かにカッコイイですね。

嶋:ところが実際に出してみたら、中々ビジネス的に立ち行かないところがありまして……。どうせなら「セブン」なのだから7号で終わればよかったのですが、8号まで出してしまして(笑)「セブン」なのにエイトで終わるという結果になりました。

【楽曲紹介1】
望月:このあたりで思い出のCMソングをご紹介頂けますか?

嶋:「大人になったら、こういう大人になりたいな」と思うような人がいっぱい出てきたサントリーの「オールド」というウイスキーのCMソングを紹介したいと思います。小林亜星さんが作曲された名曲「夜がくる」をお聴きください。

#1 サントリーオールドCMソング「夜がくる」


望月:この曲を聴くと、飲みたくなりますね(笑)

嶋:グラスに氷をカランと(笑)

望月:いいですね!お酒はお好きですか?

嶋:結構飲みますね。仲間とワイワイ飲むのは好きです。この前、「ソーシャル・ネットワーク」を観たんですけど、マーク・ザッカーバーグが冷蔵庫からビールを引き抜いてガボガボ飲むたびに、会社の業績がアップしていたんですよ。それを見て「会社の業績アップには、ビールが必要なんだ!」と思いましたね(笑)

#「ソーシャル・ネットワーク」
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望月:ははは(笑)

嶋:このCMは「大人になったら、こういう大人になろう」「こういうお酒の飲み方をしよう」と思っていつも見ていたんですけど、果たして大人になった今、こういう大人になれているか自信が無いですね(笑)

【編集者としてのキャリア】
望月:朝日新聞への出向から戻られた後、2001年から2003年まで博報堂「広告」の編集長を務められていますね。

嶋:「広告」は博報堂が20年以上出している雑誌で、僕が10代目の編集長でした。恐らく「広告」の中では一番若い編集長だったと思います。
「広告」は博報堂の本業である広告やコミュニケーションについて掘り下げていく雑誌なのですが、僕が編集長をしていた時は広告好きな人以外にも、もっと多くの人に博報堂を知ってもらいたいという思いで作っていました。博報堂って、化粧品会社と間違われたり、文房具屋さんと間違われたりと、業界の人は知っているけれど親戚のおばちゃんに聞いたりするとよく知られていなかったりする会社なので、より多くの人に知ってもらうために一般の雑誌に近い編集方針を採っていました。
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勿論「コミュニケーション」がベースにはあるのですが、その上で「文房具特集」をしたりしました。「名古屋特集」をした時には「名古屋人は、とにかく順列・組み合わせをやってみる」と言って、「CoCo壱番屋のメニューの作り方」とか「TOYOTAの車の作り方」とか「名古屋城のお洒落の仕方」なんかを取り上げましたね。「とにかく順列・組み合わせをやってみて、意外な発見があるのが名古屋のクリエイティビティだ」と主張して(笑)「新幹線特集」というのもやりました。その時は「新幹線は東京~大阪間を繋いで、毎日沢山の人を運んでいく大容量ブロードバンドである」という事を主張しました。そんなようなテーマで雑誌を作っていましたね。

【本屋大賞設立】
望月:そうして編集者としてのスキルを磨かれた嶋さんは、2004年に「本屋大賞」を設立されていますね。
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嶋:編集者としての経験がどうこうというよりも、本屋さんが好きだという事が大きかったんです。会社が神保町にあったので、周りが本屋さんだらけで、よく昼休みに通っていたんです。三省堂の神田本店で平積みになっている本をばあっと見ては、それを一言で纏めるというような訓練をしていました。

望月:平積みになっている本を見て回るのですか?

嶋:本屋に平積みになっている本というのは、ベストセラーですよね。ベストセラーには、今多くの人が読みたい情報や欲しい情報というのが詰まっている訳です。いわばベストセラーというのは今の日本人の鏡のようなものですから、平積みになっている本のタイトルを20冊ぐらい見ては「今週の気分は『対立』かな?」なんていう風に、時代の気分を捉えるという訓練をしていました。

望月:本屋好きが高じて、賞を作ろうと考えられたのですか?

嶋:本屋さんは本が売れないと返品をしないといけないのですが、一方で取り次ぎさんは返品のリスクを減らしたい訳です。そうすると、町の小さな本屋さんは売れ筋の本や雑誌しかお店に並べられなくなってきてしまうんですよね。だから、本屋さんが本当にお客さんに売りたいと思う本は、段々売る事が出来なくなってきているんです。
そういう状況を「何とかできないかな」と思い、本屋さんと有志の皆さんと一緒に作ったのが「本屋大賞」です。この賞は本屋さんが自分で読み、他の人にも読んでほしいと思った本を表彰するという賞です。普通の賞は表彰しておしまいなのですが、本屋大賞は、賞に選ばれた本を全国の本屋さんが取り次ぎさんに連絡して注文し、店頭に平積みしていくというのが特徴です。本屋さんの努力の甲斐あってか、出版不況の中、本屋大賞の受賞作はそれぞれ100万部近く売れていると思います。

望月:出版業界には直木賞など権威のある賞がありますが、それに対するアンチという側面はありますか?

嶋:そのように捉えられる事もありますね。ただ、直木賞や芥川賞も元々は「この本は良い本だよ」という事を伝えるために作られた賞だと思うんです。しかし、読者に近い目線で本を選び、売り込む事が出来るのは本屋さんだと僕は思っていて。実際、「この本を選んでくるんだ!」という目効きの巧みさというのが、本屋さんにはあるんです。第一回の本屋大賞のベスト10には小川洋子さんや伊坂幸太郎さんがノミネートされていたのですが、今となっては皆大スターの作家さんですが、当時は「掘り出し物」の作家さんだったんです。本屋大賞を作った事で、そういった佳作を幾つも見つけてくる事が出来たのは良かったと思います。

望月:投票の仕組みはどのようになっているのですか?

嶋:まず本屋さんが実際に本を読んで良いと思った本に投票する一次投票があります。これはバイトの人でも本屋さんで働いていれば投票可能です。次に一次投票でベスト10に入った本をもう一度読み直します。面倒くさいステップではあるのですが、やはり本屋さんにも好みの偏りというのがあるので、あえてここで作品を読みなおす事で順位が入れ替わる事が結構あります。

望月:そこまで順位の入れ替わりが激しくなるものなのですか?

嶋:例えば本屋大賞に「明日の記憶」という作品がノミネートされた事がありました。ある男性がアルツハイマー病になってしまう話で、渡辺謙さん主演で映画化された事もあります。この作品は本屋大賞の一次投票の時点では10位ぐらいの作品でした。

#「明日の記憶」萩原浩
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しかし、改めて読み直した事で、二回目の投票では2位ぐらいに一気に順位がアップしたんです。本屋大賞は大賞受賞作も勿論素晴らしいのですが、一次投票から二次投票の間で一気に順位が上がった作品というのはかなりの佳作であると言えますね。

望月:本屋大賞はどのようにして運営されているのですか?

嶋:僕は「本の雑誌」(http://www.webdoku.jp/)という書評誌のウェブサイトを運営しているのですが、よくそこに書店員の方々に来て頂き、原稿を書いてもらったりしていたんです。書店員の方と話をしているとよく「俺だったら、直木賞にはこの作品を選ぶのにな」というような話題になるので「だったら、賞を作りましょう」という事になったんです。
全国の書店に投票箱を置くのは難しいけれど、「本の雑誌」のウェブサイトに投票箱を設置すれば遠隔地の書店員の人も簡単に投票できるのではないだろうかと。そうして始まったのが本屋大賞で、最初の頃は「本の雑誌」の人と編集している僕たちと、有志の書店員の方達でやっていました。しかし、本屋大賞からベストセラーが生まれたりして、規模が大きくなってくるとしっかりとしたウェブサイトを作らなくてはいけなくなったりして、お金がかかるようになってきたんです。「良い賞なので寄付をしたい」という方もいたのですが、有志の団体だとお金を受け取れなかったりもして。
そこで「法人格を取ろう」という事になり、三年目にNPO法人格を取得しました。現在は「NPO本屋大賞実行委員会」が本屋大賞の実行主体として活動しています。僕はそこの理事として「本の雑誌」の方と書店員の方々と共に会を運営しています。

望月:本屋大賞には本を通じた社会貢献のような面があるように思うのですが。

嶋:本屋は多様性を担保しているようなところがあると思うんです。僕が博報堂を好きな理由の一つに、新卒で入社した頃、先輩方が「粒揃いより粒違い」という事を言っていた事があって。電通さんと違って、博報堂が素敵だと思う理由はそこなんですよね。「博報堂にしてよかったな」と(笑)だから、多様性というのは自分の中で大きなテーマだったりするんです。
本屋には小さなスペースの中に、天文学の本やら寄生虫の本やらファッションの本やら愛の本やらと、あらゆる種類の本が揃っている訳ですよね。そういった場所が町の中にあるというのは素敵だと僕は思うんです。だからこそ、町の小さな本屋を応援する仕事が出来ないかと思っているところはありますね。

【ニュートラルな課題解決を】
望月:嶋さんは2006年に博報堂ケトルを設立されていますね。この会社はどういったコンセプトの会社なのですか?

嶋:社是として「恋と戦争は手段を選ばない」という言葉を掲げております(笑)つまり、一言で言うと「ニュートラルな考えで課題を解決しよう」という事で。広告会社に入ると、広告を作る事が仕事だと思ってしまう人が沢山いるんですよ。コピーライターなら、コピーを書く事が仕事であるとか、デザイナーならポスターを作る事が仕事であるとか。

望月:アウトプットを作りたいと思ってはいる人が多いですよね。

嶋:しかし、実際にはポスターやCMというのは課題を解決するための手段なんですよね。例えば「ブランドをより認知してもらいたい」という課題に対してポスターやCMを作る訳です。つまり、全ての課題解決にCMが効くかどうかは分からないんですよね。そこで「課題に対して、一番イケてる課題解決をしよう」と思って作ったのが博報堂ケトルです。
だから、僕たちはCMを作るよりも社長が記者会見をした方が課題解決には適していると思えば「社長が記者会見をするべきです」という提案をしますし、お店を持っている企業であれば、お店に入った時の店員さんの一言目をフレンドリーに変えたら好感度が上がると判断すれば、そういう提案をすることもあります。もちろん、CMが課題解決に適している場合も多々ありますし、実際にケトルでも沢山CMを作っています。その時その時に一番適した課題解決をするのが、ニュートラルという事だと思っています。

望月:「ケトル」という名前はどのようにして付けたのですか?

嶋:アイデアを「沸かす」という事で、うちの会議室に置いてあるヤカンがいつかアイデアを考える熱量で沸かないかと思って付けた名前です。5年経つんですけど、まだ沸かないですね(笑)

望月:ケトルには共同CEOが居るんですね。

嶋:92年入社の木村健太郎君と一緒にやっています。彼はストラテジックプランニング局というマーケティング関連の部署でずっと仕事をしてきた人間なのですが、発想法が僕とよく似ていたんです。「ニュートラルに課題を解決する」という点が共通していて、それを見ていた上の人が「二人で会社を作ったらどうだ」という事になったんだと思います。

【社長島耕作就任キャンペーン】
望月:ケトルで手掛けられたお仕事の中で、代表的なものの一つに「社長島耕作就任キャンペーン」がありますね。

嶋:ある日、講談社さんに伺った時に「島耕作が社長になる」という話を聞いたんです。それを聞いた時に「これはメディアが喜ぶ話だな」と思いまして(笑)この不景気の時代に皆が知ってるサラリーマンが社長になるなんて、素晴らしいニュースじゃないですか。全国のサラリーマンの共感が呼べるニュースになるのではないかと思ったんです。
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そこでサントリーのプレミアムモルツのCMキャラクターとして島耕作を起用するだけではなく、「島耕作社長就任記者会見及びパーティー」を実際に開催しようという事になり、プレスリリースを色々なメディアに送りました。そうして、当日はかなり多くのメディアの方に集まってもらう事が出来ました。会場ではアニメの島耕作に登場してもらい、記者会見をやった後に「皆が知ってるサラリーマンが社長になる最高の瞬間を、最高のビールで祝いましょう」という事でプレミアムモルツで乾杯をしました。翌日、テレビのワイドショーなどでそのニュースを取り上げてもらい、話題となる中、講談社さんでは「社長島耕作」の連載が始まり、サントリーでは島耕作を起用したプレミアムモルツのキャンペーンが始まるという流れになっていました。

望月:PRというのが、キャンペーンにとって大きな武器になっているんですね。

嶋:現在の統合型キャンペーンやインテグレート型キャンペーンと呼ばれる手法には、PRはマストの要素として入ってくるのではないでしょうか。クリエイティブディレクターの人はPRのセンスがかなり問われると思います。コミュニケーションにおいて、喋った事がどういじられるかというところまで想定したキャンペーンのシナリオ作りが必要な時代になってきているのではないでしょうか。ブログでどう書かれるかとか、ツイッターでどう書かれるかというところまで考えないといけないのだと思います。

【楽曲紹介2】
望月:このあたりで曲紹介をお願いできますか?

嶋:僕は93年入社なのですが、その頃は仕事にも慣れていなくて徹夜で企画書を書いていたんですね。その頃によく聴いていたのがピチカート・ファイブや小沢健二といった渋谷系の音楽で。今でもそれを聴くと体が反応するんですよ。「徹夜だ!」と(笑)そんな風に王子様だった小沢健二を捉えている人は僕以外には居ないでしょうが(笑)

#2 小沢健二「愛し愛されて生きるのさ」


望月:こういう音楽もいいですね。

嶋:90年代って感じですよね。

【文脈のデザイン】
望月:嶋さんは最近「ケトル」という雑誌を創刊されたそうですね。

#「ケトル」大田出版
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嶋:いまはカルチャー誌がどんどん無くなってきていますよね。「TITLE」も「STUDIO VOICE」も「Esquire」も無くなりました。

望月:寂しいですよね……。

嶋:僕はカルチャー誌にこそ、切り口や見せ方など多様性が溢れていると思っているんです。そういった
意味で、多様性というのはやはり大きなテーマですね。あと、最近頭に来るのが、若い人と僕の好きなお店に行くと「このお店、ネットで2.9点しかついてなかったですよ」と言われる事なんです(笑)どうも、クチコミサイトの集合地を皆信じているみたいなんですね。「ケトル」の最後には、40人の学者さんやスタイリストさんやクリエイティブ・ディレクターの人に書評や音楽評を書いてもらっているのですが、そういった個人のほとばしる思いが載っている媒体があると良いなと思って作っています。

望月:紙で雑誌を出す事へのこだわりというのはあるのですか?

嶋:僕は節操無くて、その時々に一番良い方法で出来れば良いかなと思っています。本屋大賞の仕事もしますし、電子書籍の仕事もします。

望月:雑誌というのは編集の仕事だと思うのですが、「編集」の魅力とはどういった部分にありますか?

嶋:一個一個は違う情報なのですが、それが一冊の本にまとまるとまた違うものに見えてくるというのは魅力ですね。本屋さんって、どこもセレクトショップなんですよね。売っているものが同じというのは多々ある事です。
しかし、本屋さんによっては置いてある本が魅力的に見える事もあるし、ダメな本屋さんというのもある訳です。書棚への置き方一つで見え方が変わるというのは、編集に近い部分だと思います。話はそれるのですが、阿佐ヶ谷の「書原」という本屋さんに是非、行ってみてください。最高です。行ったら、必ずムダな本を買わされますから(笑)本の置き方が凄いんですよ!ワインの横にフランス革命の本があって、その横に修道院の本があって、その横にチーズの本があり、その横に天文学の本があるという……。
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ちょっとずつ繋がっているんですけど、最初読もうと思っていた本の横の本を見ていくと、いつの間にか全然関係ない本を手に取っているという。書棚の文脈の作り方が素晴らしいんですよね。「やられた!」って感じです。自分が買おうと思っていた本とは別の本を買ってしまう本屋って、良い本屋だと思うんですよね。自分の気付かざる欲望に気付くようで。雑誌もそうだと思うんです。この記事良いなと思って読み始めたら、いつの間にか別の記事も読んでいる。そういった想定外の情報との出会いが雑誌にはあると思うんです。ネットの検索は自分で知ろうと思った情報を手に入れられるものですよね。勿論それはそれで素晴らしいですし、検索技術もどんどん発展していくとは思うのですが、雑誌の良いところは自分の好きな世界観の中で知らない情報と出会えるところではないでしょうか。

望月:コンテキストを如何にデザインするのかが重要な時代になってきているのかもしれませんね。

嶋:広告のキャンペーンも多分そうです。昔はテレビ広告と新聞広告とポスター広告の3つをやればOKと
いうような時代だったのが、今はソーシャルメディアもデジタルサイネージもイベントもある時代です。クリエイティブディレクターの人はメディアの適性というのを常に捉えて、デジタル領域にも対応していかないといけないと思います。

【マクガイバーであれ】
望月:嶋さんの今後のヴィジョンはどのようなものですか?

嶋:社員には「マクガイバーであれ」と言っています(笑)マクガイバーは80年代のアメリカのドラマの主人公なのですが、課題解決の仕方が半端じゃないんですよ。まったく既成概念に捉われていなくて。

#「冒険野郎マクガイバー」
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この人は秘密組織のエージェントなのですが、運が悪くて一週間に一回ぐらい拉致されたり監禁されたりするんですよね(笑)マクガイバーが台所に閉じ込められた回があったのですが、その時はどうやってもガラスが割れなくて外に出れなくて絶体絶命だったんです。そんな時、マクガイバーは台所に合った小麦粉を空気中にばらまいて火をつけたんです。すると、物理の法則で空気が膨張してガラスが割れたんです。小麦粉を食べるものだと思っていたら、マクガイバーは台所から逃げられなかったはずですよね。既成概念にとらわれずに課題解決をし、しかも放送時間内に全て終わらせるというのが素晴らしい(笑)。広告マンの基本ですよね。だから、博報堂の新入社員には絶対に見るように言っているんです。絶えず柔軟な発想が出来る頭で居たいなというように思っていますね。

望月:これからも是非素晴らしいキャンペーンを作り続けていってください。本日のツタワリストはクリエイティブ・ディレクターの嶋浩一郎さんでした。有難うございました。

嶋:有難うございました。

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