Interview_sakamoto of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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坂本美雨 (歌手)

【小さな頃の夢】
望月:元々、美雨さんはミュージシャンになりたいと子供の頃から思われていたのですか?

坂本:小さな頃から音楽づくりの現場を見て育ってきたので、「自分は将来、音楽家になるのだろうな」と思っていました。だから、子供の頃には文集の夢の欄には「音楽家」と書いていて。でも、表に立って歌う事を目指していた訳では無かったです。子供ながらに親を見ていて、人前に立って歌を歌うというのは物凄い才能が無くては駄目で、その上、才能だけあっても駄目だという事を感じたんです。
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一方で、音楽活動の裏には物凄い数の職人さんたちが働いているということが分かったんです。スタジオではエンジニアさんやスタジオミュージシャンの方。ライブでは照明さんやメイクさん。そういった方々がすごくかっこよく見えたんです。だから、「歌手になりたい」というよりは「何らかの形で音楽に携わる仕事がしたい」という気持ちが強かったです。

望月:そういった事を小さな頃から目の当たりに出来るというのは、すごい環境ですね。

坂本:4~5歳の頃には何となくそういった事が分かるようになってきました。表に立っている人はもちろんかっこいいのですが、裏の職人さんたちもやっぱりかっこよくて、憧れを感じるようになったんです。自分に親のような才能があるとは思っていなかったので、自分は支える側の「専門職」の人間になるのかなと思っていました。

【音楽のルーツ】
望月:小さな頃、音楽についての英才教育のようなものは受けられていたのですか?

坂本:いえ、まったく教育のようなものはありませんでしたね。もちろん、スタジオに遊びに行った時にそこでかかっていた音楽というのは、自分のルーツ(の音楽)にはなっているとは思います。ただ、ちゃんとした音楽のレッスンに行ったりはしませんでしたね。ピアノを習った事はあったのですが、それも近所の人の家で教えてもらっていただけで。だから、未だにちゃんとした音楽の知識は欠落しているんです(笑)

望月:最初に美雨さんが好きになった音楽は、どのようなものだったのですか?

坂本:最初はクラフトワークやYMOのようなテクノ系の音楽が気持ちよくて、ずっと聴いていましたね。
#クラフトワーク        #YMO
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その後はジャパンというイギリスのニューウェイブ系のバンドをよく聴いていましたね。ジャパンのメンバーがよく家に遊びに来ていたのですが、曲よりも何よりもまず私はデイヴィッド・シルビアンの美しさに一目ぼれをしまして(笑)。なんて、美しい男の人なのだろう!と。

#ジャパン ミック・カーン(左)とデヴィット・シルヴィアン
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望月:すると、まずはヴィジュアルから入ったんですね。デイヴィッド・シルビアンは化粧をしていましたよね。

坂本:男の人は大きくなったら、化粧をするものだと思っていたんですよ!教授(※坂本龍一)も忌野清志郎さんも化粧をしていましたし、二人はキスをしていたので(笑)

#忌野清志郎
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望月:美雨さんは小さな頃、邦楽は聴いていらしたんですか?

坂本:オフコースや大貫妙子さんの曲が流れていると「ああ、いいな」と思ってよく聴いていました。親の友達つながりで、そういった曲を聴く事が多かったですね。

望月:すると、その当時の子供たちとは少し違う音楽を聴いていらしたんですね。

坂本:あまりテレビを見せてもらえなかったんですよ。だから、その当時のアイドルをあまり知らないんです。唯一、光GENJIだけはなんとか知っていたんですけど(笑)。ただ、五歳上のお兄ちゃんの影響で、小学生になってからはBOOWYとかも聴くようになりましたね。

望月:美雨さんはTM NETWORKのファンと聞いたのですが、本当ですか?

坂本:本当です!7歳の時に高円寺の新星堂に貼ってあったポスターで、小室哲哉さんに一目ぼれしまして(笑)。それでCDを買ったのが最初です。

望月:ハマりましたか?

坂本:ハマりました。でも親には言えなくて、内緒で(笑)。コンサートに行ったりは出来なかったんで
すけど、9歳の時にニューヨークに引っ越してからも遅れて日本から入ってくる雑誌やテレビ番組を一生懸命フォローして情報を調べ上げて、日本に一時帰国したらすかさず出ているCDを買っていました(笑)。10代の時はずっとTM NETWORKで、小室さんがプロデュースをした他のアーティストの方の曲も聴いていて。

#TM NETWORK
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ある時、TMNがエピックから出したアルバムの特典のテレフォンカードが欲しくて、ニューヨークからエアメールで応募したら、うちの母親もエピックに所属していたものだから「ニューヨークの坂本って子から応募が来てる!」ってすぐにばれてしまったこともありました(笑)。

望月:そこで、TM NETWORKにハマっていたことがバレてしまったんですね(笑)

【楽曲紹介1】
望月:このあたりで一曲、ご紹介頂けますか?

坂本:自分の歌っている曲で恐縮なのですが、「はじまりはじまり」という曲を。望月さんに色々とご紹介頂いて作った曲で、「草花木果」という化粧品ブランドのCMソングになりました。

望月:昨年リリースの楽曲で、作曲を織田哲郎さん、作詞をいしわたり淳治さんが担当しています。

坂本:すばらしい楽曲になりましたね。

#1 坂本美雨「はじまりはじまり」


【メジャーデビューのきっかけ】
望月:美雨さんのメジャーデビューは「Ryuichi Sakamoto featuring Sister M」名義でしたが、これはどのようなきっかけだったのですか?

坂本:ちょうどその時、教授が何かの曲を依頼されて作ることになっていたのですが、曲のイメージに合う声の方が中々見つからなくて困っていたらしいんです。その時に、マネージャーさんが「美雨ちゃんの声、いいんじゃない?」と、教授に言ってくれたらしくて。というのも、そのマネージャーさんと私は一緒にカラオケに行ったことがあって、その方は私が小室さんの曲を歌った声を聴いていたんですよ(笑)。
そこで、何のことか良く分からないままにスタジオに呼び出されて、「この曲、歌ってみて」と言われるがままに歌ってみたら「イメージに合うね」ということになって。だから、すごくライトなノリでしたね。その曲がドラマの主題歌になったり、シングルになったりということは全部後から聞いて、ビックリでした(笑)

望月:その後、今度は「鉄道員」の主題歌を歌われる事になるんですよね。

坂本:もともと私は「Sister M」という名前で本名を明かす事無くデビューしたので、曲をリリースした後「今後、どうするの?」と周りから聞かれるようになったんです。私自身は昔から「裏方がいい」と言っていたのですが、実際に前に出て歌ってみたら「もっと歌いたい」という気持ちが湧きあがってきたんです。そこで「歌手をやろう」と決めて、名前も本名の坂本美雨にしました。「鉄道員」の主題歌は、その一年後ぐらいですね。

【HONDAのCM曲について~「伝わる」ということ~】
望月:2005年にはHONDAのCMに「THE NEVER ENDING STORY」が採用されていますね。この曲をカバーするきっかけはどのようなものだったのですか?



坂本:この曲は、4歳の時に家族で観に行った映画の主題歌だったんですね。それ以来、ずっと大好きな曲で、自分のライブでも歌ったりしていたんです。
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それをHONDAの方が気に入ってくれたらしく、CDにもなっていなかったのですがCMに採用していただくことになったんです。それからCDをリリース出来ることになり、アルバムを制作していったという感じでした。

望月:この番組のテーマは「伝える」ことよりも「伝わる」ことというテーマです。この曲はすごく僕も印象に残っているのですが、(この曲がCMでオンエアされ)「伝わったな」という実感などはありましたか?

坂本:特に無かったですね。この曲が「伝わった」のだとすれば、それは元々この曲が持っている力でもあるし、元の映画の記憶がよみがえったのかもしれないですし、特に私がどうこうということは無いと思います。私はたまたまそのきっかけになっただけです。ただ、この曲を結婚式で使ってくださったというファンの方の声があって、それは予想外で嬉しかったですね。

望月:アーティストの方はまず「こういう事を伝えたい!」というメッセージがあって、そこから何かものを作っていくという事が多いと思うのですが、美雨さんの場合はどうですか?

坂本:明確なメッセージがまずあって、それを伝えたい!というところから曲作りに入ることはめったに
ないですね。一応「愛」というテーマがあるにはありますが、そこに直球で突っ込んでいくことも無いです。
歌詞に特別なメッセージ性を持たせることを、今の私はあまりしたくないんです。「愛」とか「勇気」とか、世の中には色々なメッセージが溢れていますがそういう事を得意とする人は他にも沢山いると思うんです。私は「伝える」というよりも、私の声や私の表現方法で「安心する空間」を作り出したいんです。だから、歌詞に「伝えたい!」という事をダイレクトに詰め込む事はあまりしないです。

望月:小さな頃からエンジニアの方の仕事など、環境を含めた音楽作りの全体を見てきたからこそ、そういったお考えをお持ちになっているのかもしれないですね。

坂本:自分ひとりで音楽が出来るとは全く思っていないんです。色々な人との化学反応が楽しいですし、プロとしてやりがいのあることですね。

【ユニット「おお雨」としての活動】
望月:美雨さんは様々なアーティストの方とコラボレーションをされていますが、その中でもおおはた雄一さんとは「おお雨」というユニットを組んでいらっしゃいますね。

坂本:おお雨は自然発生的に出来たユニットで、「お互いのバイオリズムが合った時にやる」という方針なんです(笑)。私はずっと日本に住んでいなかったので、東京に友達がいなかったんですよ。初めて東京で出来た友達がクラムボンとか、同じレーベルのミュージシャンで。そうして色々な人と仲良くしていくうちに、クラムボンのミト君の紹介で出会ったのがおおはた君でした。そして彼とライブなどで一緒に演奏したりしていくうちに「相性が良いかもしれないね」と組んだのが、おお雨です。
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あくまでお互いの活動を大事にしながら、活動をしていこうと。おお雨をユニットとしてがんがん売りだしていくというつもりはないですし、自然に続いていくユニットになるといいねと、おおはた君とは話しています。おおはた君の作る曲は私にとってすごく特別なものですし、私が歌うならということでおおはた君が作ってくれているメロディーもあります。お互いが年齢を重ねるごとに少しずつ関係も変わってくると思うのですが、そういったパートナーがいるというのは心強いですね。

【森本千絵さんとのコラボレーション】
望月:ヴィジュアル面では、アートディレクターの森本千絵さんとコラボレーションされていますね。

坂本:森本千絵ちゃんとは、大親友です。2006年に出した「Harmonious」というアルバムの時に、捕獲しまして(笑)。
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その時にアートディレクションをお願いして以来、5枚続けてコラボレーションをしています。曲が生まれてくる背景や、それ以前の私の恋愛や生活そのものを彼女は知っているので、本当に共作なんです。彼女も、他のアーティストのアートディレクションをするのとはまた違った部分で仕事をしているのではないかと思います。一種の化学反応ですね。

望月:5月18日に発売の新作「HATSUKOI」のアートディレクションも森本千絵さんが手掛けられていらっしゃるとのことですが、非常に斬新なデザインに仕上がってますね。

坂本:「HATSUKOI」という架空の炭酸飲料の広告という体のグラフィックとアーティスト写真になっています。「こういう広告あるよね!でも少し80年代っぽいかな?」というような仕上がりで、私の作品はもちろん、他のアーティストでもこれまでには無かったデザインではないかと思います。
#「HATSUKOI」
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望月:このデザインは、どのような経緯で決まったのですか?

坂本:千絵ちゃんが最初にこのアルバムを聴いた時に、「シュワッとする!」と言ったんですよ。そのほかに、二人の間では「ときめく感じ」「きゅんとする感じ」というのがキーワードになっていて。そこから少しずつ変化して、最終的にこういう形になったんです。

望月:では、このあたりで一曲ご紹介ください。

坂本:アルバム「HATSUKOI」の先行シングル、「Precious」をお聴きください。

#2 坂本美雨「Precious」


【デイブ・リアン氏との作業】
望月:このアルバムのプロデュースは、デイブ・リアンさんという方がおこなっているのですね。

坂本:デイブ・リアンさんは「THE SHANGHAI RESTORATION PROJECT」というプロジェクトをおこなっている中国系アメリカ人の男の子なのですが、前のアルバムを一緒に作った時からすごく相性がいいなと感じていて。いっぱいアイデアをお互いに投げ合える関係で、「もっとこういう曲を作りたいね」という話をしているうちに、今回のアルバムを一緒に作ることになったんです。

望月:そもそも、彼と組むことになったきっかけはどのようなものだったんですか?

坂本:前から、私のことを全く知らない人と組んで曲を作ってみたいなと思っていて。そんな時期にたまたま彼の曲をiTunesで聴いたのですが、彼の作る曲の音の扱いの綺麗さがすごく印象に残ったんですね。

そこで、彼のもとに「私は日本で歌を歌っている者です」とMyspaceからメールを送ったんです(笑)。するとすぐに返事を下さって、こちらの曲も聴いてくれて。たまたま相手も住んでいる場所がニューヨークだったので、「一度会いましょう」ということになったんです。そこからはとんとん拍子で、すぐに一緒に曲を作ることになりましたね。

望月:知らない相手でも、とにかく連絡を取ってみる行動力がすごいですね。最初に会う時は、どきどきしませんでしたか?

坂本:直感で「こういうことが出来るだろうな」と思う相手に対しては、臆せず飛び込んでいきますね。最初に会ったのはニューヨークのカフェで、とりあえず自分のCDだけは持っていきました(笑)。

望月:実際に会ってみていかがでしたか?

坂本:すごく丁寧で賢くて、器用な方でした。こちらの言うことを一旦受け入れた上で話をしてくれるので、怖くなかったです。

望月:すると、すごく良いパートナーとお仕事が出来たんですね。今回のアルバムから、ぜひもう一曲ご紹介頂けますか?

坂本:では「HATSUKOI」の一曲目に収録されています「Joy」という曲をお聴きください。

#3 坂本美雨 「Joy」 HATSUKOI
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望月:美雨さんのtwitterのアカウントには数万人のフォロワーがいらっしゃるそうですが、やはりtwitterはよく使っているのですか?

坂本:twitterは好きですね。これまでにも色々なネットのサービスはありましたが、ソーシャル・ネットワーク上で知らない人と出会うというのはあまり興味が無かったんです。
でもtwitterはすごく軽い気持ちで出来るし、善意に基づいて出来ている感じがするんです。匿名性がほぼ無いに等しいですし、「いいな」と思った事を友達に知らせるというシンプルな考えが基本になっているんですよね。twitterのサンフランシスコの本社に取材に行かせて頂いたことがあるのですが、サービスを開発した方々も社長の方も、オフィスの雰囲気もすごくよかったんですよね。
以前からtwitterは使っていたのですが、そういった理念を知ってからはより一層twitterが大好きになりましたね。「がんがんtwitterやります!」と(笑)

望月:twitterで何か新しい動きが出てきたりということはありましたか?

坂本:新しいミュージシャンの方々との出会いがあったりしますね。その中にはメジャーじゃない方もいるのですが、そういった方々の日々の活動の様子を知ることが出来るのは自分にとっても励みになります。そこからセッションが生まれることもありますね。小室哲哉さんとも、DM(ダイレクトメッセージ)のやりとりを交わす事が出来ました。メールよりも軽い気持ちでやり取りが出来るのはいいですね。
また、日本のペットの殺処分があまりに多いことについてtwitterで会話をしたことがきっかけで、「フリーペッツ」という動物の愛護活動が生まれました。なので、私のtwitterは犬猫関係のつぶやきが少し多すぎるかもしれません(笑)

【今後の活動予定】
望月:美雨さんはライブを開催予定だそうですね。

坂本:6月23日に渋谷のDUO MUSIC EXCHANGEでワンマンライブを開催予定です。また、タワレコでもインストアイベントを開催予定です。今回のアルバムの音は、是非皆さんに生で体験して頂きたいサウンドに仕上がっていますので、来て頂ければと思います。

望月:皆さん、ぜひ生の坂本美雨を体験してみてください。本日のツタワリストは歌手の坂本美雨さんでした。ありがとうございました。

坂本:ありがとうございました。

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