Interview_takasaki of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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高崎卓馬(クリエーティブディレクター/コピーライター)

望月:実は高崎さんは僕の同期なんですよね。93年に(電通)入社ということで。その年は、実は電通史上最も沢山新卒社員を採った年で。その頃は電通にも地方支社があって、地方勤務をする社員も含めて新卒を採っていたんです。そして、93年入社の社員は辞めた人間が多いんですよ。僕も3年ぐらい前に電通を辞めて。その時に辞めた社員を数えたんですけど、既に50人は辞めていた(笑)。結構変わったやつが多かったんだよね。音楽系の人間で言うと、僕は4人目に辞めた人間で、最初に辞めたのがケン・イシイ。次に辞めたのがキャプテン・ファンクのオオエタツヤくん。その次に辞めたのがギルケイ。その次が僕。

高崎:皆、クリエイティブ職じゃないよね?

望月:そうなんだよね(笑)。まあ、電通と言うのは色々な人材がいる場所ですよ。
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高崎:面白いね。

【大学時代の話】
望月:高崎くんは元々電通に入りたいと思っていた?

高崎:元々大学でずっと自主映画を作っていて。ただ、自主映画って誰も見ないじゃない?コンテストに応募しても、まあ通らないし(笑)。バイト代を何十万とつぎ込んで作っていたんだけど、誰も見てくれなくてサークル内で見せ合うと。でも、それじゃ物足りなくて、これじゃいけないと一緒に映画を作っていた奴と話をして。そこで芝居をやった方が良いんじゃないか?って話になって。芝居をすれば、箱に閉じ込めれば少なくとも何百人かには強制的に芝居を見せる事が出来るからね。それから芝居を4本ぐらい作って。

望月:自分で芝居に出演をしたの?

高崎:いや、僕は脚本と演出をやって。それから、全国のあらゆる劇団を見て回って面白そうな奴には声を掛けたりもして。その劇団は結構熱くなってて、「これで食べていこう!」みたいな感じになったんだよね(笑)

望月:結構(劇団は)人気が出たんですか?

高崎:強制的に見せてたから、人気があったかは分からない(笑)。自分達で表現をして、それを何百人の目に留まるから、やってる側は楽しいわけ。それを辞めたくなくて、続けて行きたいって奴も何人かいたんだ。でも、10年後20年後の事を考えた時に、皆で路頭に迷ってる気がしたんだ(笑)このままではまずいんじゃないかと思って話し合いをして、結果本当に芝居をやりたい奴はよその劇団に行ったり、自分で劇団を立ち上げることになって。だから、今でも続けている奴はいっぱいいる。でも僕は結局劇団を解散することにした。その後、しばらく経ってから「やばい、就職どうしよう!」と思って就職活動を始めたんだ。

【電通入社のきっかけ】
高崎:映画を作りたかったから映画の配給会社をいっぱい回ったんだ。でも話を聞いてみると、自分達は映画を作っていないって言うんだよね。作ってるのは、映画の配給だと。あれ、違うな?と思って、次に行ったのが出版社。もう、どれだけ世間知らずなんだって話だけど(笑)。そこで話を聞いてみると、自分達は本を書いていないと。本を書いているのは作家で、自分達はそのプロデュースをしていると言っていて。それを聞いて、僕は「あれ、作ってる人がどこにもいないな」と思ったんですよ。テレビ局にも行ってみたけど、そこも同じで。当時、早稲田(大学)に居たんだけど、そういうところに居ると基本的にプロダクションっていう発想が無い。全部大きい会社で作っているものだと。小さい制作会社で物を作るって選択が情報として体の中に入ってこない。そこで色々会社を回っているうちに、博報堂の人を紹介されて。

望月:博報堂は当時(物を)作っていたんですか?

高崎:制作局と言うのがあって。社員の人が絵コンテを書いているのを見て、「この人達、物をちゃんと作ってる!」って(笑)。これでお金貰えるのは良いなあと思ったんだよね。そこから、一気に広告への興味が湧いて色々勉強を始めて。昔、「元気が出るテレビ」ってあったでしょう?あの番組に川崎(徹)さんというCMプランナーの人が出ていたんだけど、相当いかれたことをしていた川崎さんを見た母親に「卓馬は将来あれをやりなさい」って言われた事があって。「あ、川崎さんってCM作ってる人だったな。これはCM間違いない!」って思って、博報堂の試験を頑張って。その時に、すごく受かりたかったから余計なことを色々言ったんだよね。「映画でも何でもいいです」と(笑)。結果、博報堂には受かったんだけど、そのことを凄く後悔して。そのあとに、どうやら電通と言う会社があるらしいと。電通では後悔したくないと思って、「制作しかやりたくない」って面接の時に言い切ったら、電通に受かった。言い切って受かった分、電通の方が可能性がありそうだと思って、博報堂では無く電通に入ったんだよね。ただ、電通はクライアントに向かい合って仕事をしている分、現場感が仕事の中に無くて。「よーい、スタート!」ってカチンってやってる人が、会社の中に居ると思ってたんだけど、何処にもいないと。それがショックで。スーツを着て、13階まで上り下りさせられたじゃない?それがすごく嫌だった(笑)

望月:ははは(笑)。ちなみに13階と言うのは当時の電通の本社ビルの新人研修のホールです。そこまで新人は階段で行かないといけないというしきたりだったんですよ。

【クリエイティブの仕事の向き不向き】
高崎:電通に入社してからは、クリエイティブに配属になって。現場に近いところで広告がどのように作られているのかと言うカラクリを目にして来て、18年が経って。もう(ノウハウが)体に染みついていると言う感じで。

望月:まず、クリエイティブに配属になってよかったよね。電通は入社時点では配属が決まっていなくて、クリエイティブ試験などを経て配属が決まるんですよ。当然、行きたい配属先に行けない人もいっぱいいると。
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高崎:本当に良かった。でもクリエイティブに配属になって14年も経つと、かなりの人数が淘汰されていたりしますね。向き不向きってやっぱりあるじゃない。別にそれが良い悪いと言う事ではないし、使い物にならないという訳でも無い。単純に向き不向きの問題で、クリエイティブに不向きな人間が他の部署に行って強くなっていると言う事も沢山あるし。最初の配属から10年20年経って残っているのは、半分以下だよね。そういった向き不向きを見極めるのは難しい。運もあると思いますね。

望月:実際、配属になってみて(クリエイティブは)「俺に合ってる!」って思った?

高崎:向いているか向いてないか以前に必死だったね。「向いてない」と(周りに)言われたくなくて。とにかく最初の5年間ぐらいは必死だった。やっとの思いで辿りついた席だったから、絶対に手放したくなくて。向いているか向いていないかは誰にも分からない。ただ、出来ないとか居る意味が無いっていうような事になるのが辛くて。他の選択肢が自分の中に無かったと言うのもあるかもしれないけど、とにかく必死に勉強して学んで。その時点で自分はゼロだったからね。

【コピーライティングの勉強】
望月:広告を勉強する上で、師匠は居たの?

高崎:AD(アートディレクター)以外は、配属された段階ではコピーライターも含めて皆一般職扱いで、まず「コピーを勉強しろ」って言われたのね。大体はコピーライターの師匠が新入社員に一対一でコピーを教えていく。でも僕の場合は、配属してくれた偉い人が「コピーライターの師匠に付くと、その手癖を覚えてしまって、それ以外の物に目が付かなくなる」って考えの人で。そこで、デザイナーに付くように言われた。デザイナーに付くコピーライターだから、そのデザイナーと一緒に仕事をする色々なコピーライターを見る事が出来た。コピーライターに付いていくと、色々なデザイナーの仕事は見る事が出来るけれど、コピーの書き方や方法論に関しては自分が付いた人の物しか見る事が出来ない。僕はたまたま色々なコピーライターの人の仕事ぶりを見る事が出来る環境だったから、色々な人の長所や短所を見つけていった。「面白いんだけれど、長い」とか「長い文章を書かせると、上手だけど(読むのが)面倒くさい」とか「話が暗い」とか。「こういうコピーはこういう風に出すと良いんだ」とか「手書きでこういう風に書くと、コピーが素敵に見える」とか「“美味しくない”と筆圧高く書くと、良さそうに見える」とか、そういったノウハウを身体の中に最初の5年間ぐらいの間に身体の中に入れて行く事が出来た。それは(仕事の上で)全ての基礎になっているかもしれない。「言葉」って大きくて。言葉はタダで、CGは使わないし、編集もしないし、コストがかからないし、誰でも幾らでも持ってくる事の出来るもの。そんな「言葉」というもののスキルを持っていると言うのは、自分にとって最大の武器かもしれないね。表現をする上で、いつも最後に自分を助けてくれる。最初の5年間はそこだけは必死になって勉強していたし、今でも勿論学んでいるし、譲れない部分でもある。すごく大切なことを最初の内に教えてもらえたと思いますね。

【楽曲紹介1】
望月:このあたりで一曲紹介して頂きたいんですが、どのような曲を?
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高崎:2009年に「ホノカアボーイ」という映画の脚本とプロデュースをしたんですけど、実は脚本で行き詰ったんですよね。ちゃんとした商業映画で脚本を書くのは初めてだったので。行き詰った時、「映画は何を伝えるものか」というのを必死に考えたんですね。で、考えていくうちに「これは一度形にした方が良いな」と思って、(考えを)詩にしたんですよ。その詩を最終的に曲にしてもらったんです。それが小泉今日子さんの「虹が消えるまで」という曲で、斎藤和義さんに曲を書いてもらいました。この映画の主題歌になった曲です。

#1 小泉今日子「虹が消えるまで」

望月:ハワイの虹は綺麗だよね。

高崎:綺麗。特殊な感じだよね。ちょっと切なかったりもして。

望月:「切なさ」は表現の上でのテーマなの?

高崎:例えば「楽しい」って言っている時にも、その楽しさがやがて終わっていく「切なさ」がどこかに付いて回っていると思うのね。それは表現に限らず、普段何気なく話をしている時であっても。

望月:サザエさんの音楽がかかると切なくなったりね(笑)
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高崎:そうそう(笑)。サザエさんの曲を聴いていて、楽しいはずなのに切ない気持になったりする。これってやっぱ真実だと思うんだよね。物を作る上では、そこは突き詰めないと駄目じゃないかなと言う気がする。一つの感情だけを扱っていても、それは本当の物じゃないっていうか。「美味しい!」って言っていても、その裏には前日に食べた美味しくない物の記憶があったり、次はいつこれを食べられるかな?っていう不安な気持ちがあったりする。一つの感情の中には、一つの感情以外のものも絶対にある。その事が立体的に出てきている表現の方が豊かだと思うし、そういう物を丁寧に描いている物ほど本物の表現であると言う気はするよね。自分が好きだと思う表現が大体そういうものだということかもしれないけど。でも、「これは良いな」って思う表現は、そこの感情の部分の整理が上手く出来ている表現だったりする。例えば、物語の最後に主人公が「バカ」って言う。これって「バカ」って思ってないじゃない?「一緒に居たいと思っているのに、居れない。でもやっぱり一緒に居たい」みたいな感情がにじみ出てくる。全ての物語は、最後の「バカ」って言葉がどれだけ豊かに刺さるものに出来るかということのための設定であったりもする。その一点に向かって真っすぐに出来ている物語はやっぱり美しいなあって思うし、そういうシーンを見ると心がぎゅっとなるというか、見て良かったなって気持ちになる。そういう物を作りたいと思うかな。映画もそうだよね。

【映画を手掛けるきっかけ】
望月:学生時代から映画を作っていて、それが何故か広告代理店に入ることになって。でも、それから割と早い段階で映画に辿り着いたんじゃない?

高崎:周囲に映画をやっている人が居ない分、外から見ると早く見えるかもしれないね。

望月:電通に居て、映画の仕事って出来るものなの?普通は出来ないよね。

高崎:電通って映画を作る部署もあったりするからね。そこは出資をするだけだけど。ただ、電通の中でも「うちのクリエイティブってもっと活用できるんじゃないか」っていう風潮があって、「うちのクリエイティブに映画を作らせたら面白いんじゃないか」って思っている人が中にはいたりして。一方で映画業界の中にも、映画業界の人間とは違う作風を持つ人間を求める人がいて。そういったピースが集まって、それがポンと自分のところに来た時に原作として渡されたのが「ホノカアボーイ」って作品だったんだよね。それも「こういう作品あるんだけど、映画にしてみる?」みたいに薄いニュアンスで言われたんじゃなくて、「電通で映画やるならさ!」って言う感じで渡されたんだよね。「ビジネスとしてしっかりやってみるか」っていう気持ちと「やっと映画が作れる」っていう気持ちと、原作読んだ時に「これをビジネスにしちゃいけない」っていう気持ちが入り混じって。この話は人と人が出会って大切に紡がれていくピュアな話だったから。とりあえず劇場に人が入れば良いっていう電通的な発想がある一方で、作品を踏みにじって全く別の物にしてしまう事はあってはいけないと思って。とはいえ、そのままでは映画化は出来なかった。趣味的で単館上映をするような収益性に結び付かない作品になってしまいそうだったからね。そういった作品には電通もフジテレビもお金を出さない。Aさんの欲求とBさんの欲求を満たしながらも、原作という大切なものを守った作品を作らないといけなかったんだよね。全く別のベクトルの欲求を持つ全員が納得するプロットを見つけ出して、(脚本を)書く。この手法は制約がはっきりしている分すごく広告的なんだよね。制約ってアイデアの素でもあるんだよね。上手くいかないなあっていう部分には企画のヒントがあるから。制約が明らかであったから、それを作るための方法をまず考えて、フジテレビにプレゼンをして「やろう!」となったんだよね。

望月:大変じゃなかった?

高崎:大変だった。とても一口には言えない(笑)。ただ、始めて映画を作る事の出来るチャンスだったから、絶対にものにしたいと思ったし絶対に途中で投げる事もしたくないと思った。二本目だったら萎えてたかもしれないけど(笑)。もし二本目だったら、この原作で色々な人と話をして映画を作り上げて行こうという気持ちにはなる事が出来なかったかもしれない。一本目だったから、とにかくがむしゃらに突っ走る中で学んでいったという面がある。

【映画とCMの違い】
高崎:広告と映画って撮影機材が一緒だから似てはいるんだよね。スタッフも含め。ただ、広告は繰り返し見るものだから百回見ても大丈夫なように、絵コンテがあって秒単位で考えて行くんだよね。でも、映画は何回も見るという前提では無い。一度の上映の中で、(鑑賞者の)感情を全て作らなくてはいけない。そのためには芝居が大事。演技の掛けあいが瑞々しく見えるためにはどうしたらいいのか。そういった発想で映画の方法論は全て作られていて。CMだと「絵」を作るような感じなんだよね。素材を作るために映像を撮っていくという感じ。そういった意味で、映画と広告ではあまりに方法論が違うと思った。現場にはCMのスタッフを連れていったから、そこは大変だった。
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望月:現場にはCMのスタッフを連れていったんだ。

高崎:半々だった。ハワイの現地の人たちやニューヨークからのスタッフとか、映画系の人たちとかも居た。監督や美術には僕の周りのメンバーも居て。映画系と広告系の人が半分半分だったね。皆、文化が違うから戸惑うんだよね。どっちのやり方が正解というのも無いし。双方の良いところを取ることが出来れば良いんだけれど、実際には映画のやり方でやってきている人は「どうして広告の奴らはこんなことも分からないんだ?」と思ったりする。「こんなことも分からない素人が」っていうような雰囲気になる瞬間と言うのも沢山あって。広告側の人間から見ると「こんなやり方じゃ全然良いものは出来ない」と思ったりもするのね。そういった方法論のバトルは延々とハワイ島で一カ月続いて(笑)。

望月:常識って怖いよね。

高崎:こちらの尺度で物を見てしまうからね。特に広告と映画は似ている分「どうしてこんなことも分からないんだ?」って思ってしまう。分かって当然だろうと。説明しなくても分かるだろうとお互いに思っちゃうんだよね。

望月:でも素敵な作品になったよね。

高崎:あの死闘は何処へやら(笑)。すごくほのぼのと言うか、ほんわかした感じに(作品は)見えますけど、裏側では血が随分と流されたという。

【楽曲紹介2】
望月:このあたりで次の曲をお願いします。

高崎:この間、東北新幹線の新青森駅が開業になりまして。「MY FIRST AOMORI」という三浦春馬くんや吉幾三さんが出ているキャンペーンをずっとやっていたんです。その時に槇原敬之さんに曲を書いてもらったんですね。その曲を。

#2 槇原敬之「林檎の花」


望月:詩が良いね。

高崎:天才的だよね。特殊な言葉遣いだと思う。僕らが普通に詩を書くように言われても、こうは書かないだろうなと言う気がする。

望月:今回はキャンペーン用に曲を書きおろしてもらったの?

高崎:そう。元々、槇原さんの「素直」という曲でキャンペーンが立ちあがったんだよね。ただ、主人公の三浦春馬くんが新青森駅に勤務になるシーンのあたりから曲を変えたいなと思ってて。そこで代わりになる曲を頼みに行って。「素直」の方が良かったねとならないような曲にしてくださいと、プレッシャーもかけて(笑)。膨大な数の槇原さんの曲を聴いて、「こういった感じの曲が良い」という話もして。槇原さんも「素直」とこのCMのはまり具合は尋常じゃないから、新しい曲を書くのは大変だと言ってましたね。だから、もし「素直」を超える曲を書けなかったら「素直」に曲を戻してくれと言いながらスタジオに入ってました。槇原さんは詩を先に書くんですよね。すごくそれが意外で、詩の空気感を見てほしいというような事も曲を書くよりも先に言われたりして。ある日、「デモが出来ました」と連絡があって、車の中で曲を聴いた瞬間に皆で絶叫して。「すげえ!」と。青森の駅に行くとこの曲が掛かっているのね。だから、そういうつもりで曲を作ってもらって。青森に行くと津軽三味線が鳴っている居酒屋がいっぱいあるんだけど、そういったところで三味線を聴いていると明るいんだよね。青森の人って勝手に家の中に引きこもっているイメージを持っていたんだけど、全然そんな事無くて。皆おしゃべりだし、お店の中で三味線ガンガン弾いて普通の人が前に出て行って歌ったりするような感じで明るいんだ。その感じが沖縄に似ているなと個人的に思ったのね。そういったことを槇原さんと話していたら、「自然律」の話を槇原さんがしてくれて。自然の多いところでは人間の耳に入ってくる音は自然の音がベースになるから、そういう音を聴いて育った人たちの音楽には共通項があるらしいんだよね。だから、ブラジルとかあっちの方の音楽を聴いて僕らがその音楽の完成が分かるというのは、その理由はもしかしたらそういったところにあるかもと槇原さんは話していて。そういったことをきっとずっと考えている人なんだろうなと思って、それが嬉しかった。音楽の事をずっとやっている人が、曲を書いてくれるんだなって。どんな曲が上がってくるかドキドキしていたんだけれど、この曲で良かった。

【良いコマーシャルの作り方】
望月:このキャンペーンはすごく皆の心に刺さっていると思う。さっき話にも出た「切ない」感じもあったりしてね。やっぱ大変だった?(笑)

高崎:良いコマーシャルを見たら、絶対に大変だと思った方が良いと思う(笑)。

望月:一見、サラッと出来ているように見えるじゃない。

高崎:そうなんだけど、でも「夕日があそこに無くちゃいけない」とか「電車があそこに走ってなきゃいけない」とか、そういった全てのパーツが揃って、初めて「ノスタルジックな感じ」が出来るんだよね。「ノスタルジックな感じ」って、自分達の頭の中にある絵をもう一度作る事でしょう。それはやはり全てのパーツが揃ってないとそうは思わない。「新幹線に夕日が綺麗に当たっている姿」の夕日の当たり具合が少しでも違っていたりすると、感情ははまらないじゃない。そこを追求していく作業だから、カメラはしっかり回していて新幹線も映っているけれど「これじゃ人の心は動かない」と思ったら次の日撮って次の日撮って……というのを繰り返す。だから、半端なく大変な撮影日数だった。現場の人は本当によく頑張ったコマーシャルだと思う。僕らが作業をする時に良く言うんだけれど、楽な方と難しい方の道があったら必ず難しい方を選んだほうが良い物が出来ると言っていて。簡単な方を選ぶと他の人も出来る可能性があるじゃない。難しい方を選んで作っていくと、他の誰にも出来ないものに辿り着く可能性が大きいから。誰も出来ない物を持って行った方が皆感動してくれるし、嬉しいから、そっちを出来るだけチョイスする。企画マゾだよね。追い込んだほうが良い物が出来ると心から信じているから。一緒に屋ている人は大変だなと心から思うけど(笑)。

【「伝わる」とは何か】
望月:高崎卓馬にとっての「伝わる」ってどういうことだろう?
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高崎:自分が思っている物と同じものを相手にも思ってもらうって言う事は、「伝わる」じゃないと思う。自分がその時に思って作ったものを他の人が見て、相手の心が動く事が多分「伝わる」で。相手の人がどう思うかは、その人がこれまで生きてきてその作品と出合った時に起きる化学反応だから。伝わったかどうかというのは、心が動いたかどうかなのかもしれない。見ても見なくても変わらなかったというのは、作る意味が無かったものだと思うのね。見て良かったと言うのは嬉しいし、見なきゃ良かったと言うのは悲しいけど、それすら起きないものは悪だと思う。心が揺れるか揺れないかと言う事が大事で。「美味しい」って色々あるじゃない。お母さんが作ってくれた味に近くて美味しいとか、食べた事無い味で美味しいとか。自分の思う美味しいと相手の思う美味しいは違う物で良いと思う。とにかく「美味しい」という色々な思い方をしてほしい。受け取って、変化してほしい。変化が起きた事が、伝わったと言うことかもしれない。

【電通に居る事のメリット】
望月:これからも色々なことをしていくと思うんだけれど、電通に居ながら続けるの?

高崎:全く分からない。

望月:電通は居心地が良い?

高崎:居心地が良い。自分に価値を感じてくれているから。自分を必要としてくれているところに居ると、気持ちが良いじゃない。居てくれてありがとうと皆が言ってくれる所に居ると、気持ち的に助かると言うか。

望月:さっきの話で言うと、もっと追いつめた方が良いクリエイティブが出来ると言う可能性はあるよね。

高崎:電通に居るとアウトプットが自由に選べるというのはある。何かを伝えると言う時にCMで返しても、映画で返しても自由だと思うのね。結果さえ出せばいい話で。でも外に居ると「CM作ってください」と話が来るでしょう。もっと表現の形は奔放に選んでいいと思うんだけれど、その奔放さが自分から無くなってしまうと悲しい。

望月:電通はプロデュース会社だから、一番高いレイヤーで色々な選択肢があるんだよね。

高崎:表現は自由で無限にあるから、表現をチョイスするところから考えた方が面白いし、機能する表現を選べるじゃない。CMが機能するかどうか分からないのに、CMを作らないといけないとなったら、完全に負け戦だと分かっているのにそこで頑張らないといけないみたいになって奇跡が起きない限り勝てないっていう風になる事はあると思う。どのメディアで何をやるかというもっと川上のところから考えないと。表現の規定を考えるところからクリエイティブだと思うから、そこにクリエイティブが発揮されていないものを受け取るとなると、自分の良さが発揮できない気がする。そこまで含めてやるから、何とかなってる感じがするんだよね。

望月:まだまだ話足りないのだけれど(笑)。これからも素晴らしいクリエイティブを作り続けてほしいと思います。本日のツタワリストはクリエイティブディレクター、CMプランナーの高崎卓馬さんでした。ありがとうございました。
高崎:ありがとうございました。


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