Interview_harano of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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原野守弘(クリエーティブディレクター)

【広告賞の話】
望月:実は沢山賞をお取りになってますね。

原野:そうですね。がんばってます。
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望月:D&AD、イエローペンシル、カンヌ国際広告賞も金賞です。アドフェスト360°ロータス、グッドデザイン賞、広告電通賞。あらゆる賞を一人で笑 これはどのような感じで今まで取られてきたんですか?

原野:そうですね。僕の場合、先程プロフィールで紹介してます通り元々電通には居るんですけど、クリエイティブ畑じゃないわけですよ。

望月:はい。

原野:メディアの仕事をやっててドリルという会社を作って、いきなりクリエイティブディレクターというのをやるんですけれども、世間の目は冷たいわけです 笑

望月:なるほど 笑

原野:最初はね、何なんだと笑 メディア出身の小僧が!みたいなことがあるわけです。
クリエイティブってコミュニティがありますよね。

望月:ありますね。独特の。

原野:そこに入っていけないと、中々仕事もし難かったりするわけです。僕は20代の時に何もクリエイティブの実績が無いから難しいわけですよ。日本の広告賞ってコミュニティに入っていないと取りづらいというとこもあって、海外から行くしかないと。海外での賞を取ったら、「ああ、原野君という子はこういうものを作ってるのか」ということになって、仲間とも会えるんじゃないかなと。だから最初の方は結構狙ってやってましたね。

望月:狙って取れるのがすごいですよね。

原野:そういうのを理解してくれる良いクライアントさんがいたというのと、後は研究ですよね。

【広告への関心のきっかけ】
望月:そんなクリエイティブディレクターの原野さんなんですけれども、まず元々広告に興味を持ったきっかけを聞いていきたいんですけれども。
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原野:広告は僕らの世代ですと80年代に糸井(重里)さんとか杉山(恒太郎)さんが居て、憧れる業界の一つではありましたね。でも、実は広告会社に入ろうというのはあまり思ってなくて。元々は大学を卒業したら大学院に行って、歴史の学者になりたかったんです。ただ、たまたま入った学部が商学部で、他に面白そうなところが無いという理由で広告のゼミに入って、そのゼミからコネ入社と言いますか笑 毎年そのゼミから何人か電通に入れるというゼミだったんです。今はもっと大変かもしれませんが、その頃は丁度氷河期が始まった時期だったので、ここで一回入っておこうかということで、入ったんですね。

望月:じゃあ受けた会社は全部、電通や博報堂といった会社なんですか?

原野:いや、電通しか受けてないんですよ。そこで受かったので、だったら歴史学者は一回置いといて、広告会社で頑張ろうかと。

望月:で入ってみたら、どうでしたか?

原野:僕は広告会社と言うと、広末涼子だなんだっていう華やかな世界を想像してたんです。でも、僕が最初に配属された部署は海外メディア局というところで。まあメディアですよね。媒体という体育会系の部署のさらに海外といういびつな部署だったんです笑

望月:おお。笑

原野:海外のメディアに原稿を送る仕事だったんです。

望月:海外に行ってそれをやるわけでもなく?

原野:いや、クリエイティブが作った原稿をひたすら海外に送るという。毎日フェデックスのパッキングをするみたいな。それが最初ですね。

望月:それが嫌になって一回辞めたんですか?

原野:それが嫌になったというよりは、少なくとも国内の仕事がしたいなと思いまして。どうしようかなあと思っていた頃に、丁度インターネットの広告というのが始まったんですよ。

【インターネット広告の創世記】
原野:僕はインターネット広告の事を海外の媒体を担当していたので、掲載誌の記事で読んだんです。もう、なんとなく直感ですよね。これは将来もっと大きくなりそうだなと。その頃はインターネットを皆そんなには知らなかったんですけど、僕はそれこそGill k(アーティスト。電通に勤務していた。)とか電通の調布寮で隣の部屋だったのでインターネットを習って、知っていたわけです。そこでメールをYahoo!、HotWired、AOL、NetScapeという4社に送りました。「日本の電通だ。広告を売ってやってもいいぞ」と。笑

望月:ずいぶん大きく出ましたね。笑

原野:「ついては、広告の料金表や仕組みを教えてくれ」と。そんな感じのメールを送ったら、当時は返信が直接Yahoo!の創業者のジェリー・ヤンから来るぐらいの感じで。

望月:本当にインターネットの創世記。

原野:Yahoo!は当時まだ社員が9人ぐらいしか居なかったんですよね。で、資料を纏めたりしていたんです。すると電通って、情報が「早い」人っているじゃないですか。

望月:はい。

原野:僕よりももっと大人の人で、当時からインターネットのことを考えたりしていた人の目に留まったんです。「海外メディア局の原野君という子が、何だか面白い資料を持っている」と。当時はそれが恐らく日本中で唯一のインターネット広告の資料だったわけですよ。

望月:なるほど。

原野:それからソフトバンクの孫さんがYahoo!を買い、Yahoo!を売るための会社を作って電通に来たんですけど、それが先程話にも出たサイバー・コミュニケーションズです。その会社が出来てから、電通の中にも「サイバー・アドバタイジング部」という部署が出来まして。そこで当時の副社長に「海外の部署から出たいんですけど、これまで海外頑張ったんで、新しい部署に移ってもいいですか」と頼んだんです。笑 当時は割とそれだけでも部署を移れるみたいなところがあって、晴れてインターネット広告の部署に脱出をしたと。

望月:それからはインターネットを手掛けてこられたんですか?

原野:はい。で、当時はネットバブルというのがありまして。仕事をしていくうちに、一緒に仕事をしている媒体社の人が次々と億万長者になっていくのを目の当たりにしたんです。もう自分は残業して、クライアントの対応に回ったりしているのに。笑 そうなったら自分も億万長者になってやる!と、当時はちょっと金に目がくらみまして。笑

望月:はは 笑

原野:山のようにヘッドハンティングが来てたんです。当時はネットと言うと広告しかビジネスモデルが無かったんで、電通出身者が社内に居たらカッコイイわけですよ。要するに会社が上場する時に「うちには電通出身の社員がいます」と言いたいんですね。当時はそれだけで値が付くような時期でした。で、会社を移ったんですけど、すぐに辞めちゃったんです。笑

望月:億万長者になって辞めたんですか?笑

原野:いや、ならずに。笑 分かったのは、「億万長者になるにはお金が好きじゃないとなれない」ってことです。僕もお金は欲しかったんですけど、お金が欲しいってぐらいじゃ、お金持ちにしてくれないんですよ。お金そのものが好きじゃないと。

望月:なるほど。

原野:「俺、ちょっとこの世界じゃやっていけないかも」って。僕も確かに最初株とかもらったりしてたんですけど、最初に思ったのは「これ売ったら、リッケンバッカー(ギター)の本物買えるかも」ぐらいの感じで。そういうぐらいの夢しか無いですよ。40万円ぐらいのね。笑 これまで話していたのはやっぱり電通の人だったので、面白いじゃないですか。変な人もいるし。それが話す内容が単一的にお金の話になってしまったので、「これはちょっと戻ろう」と。戻るまでの話もまた長いんですけどね。今日は端折ります 笑 で、電通に戻ったんです。

【ドリル設立の経緯】
望月:で、ドリルという会社を作られるんですか?

原野:電通に戻ってからも、しばらくインターネットの仕事をしていました。でも流石に10年もインターネットの仕事をやったので、新しい事がやりたいなと。そこで上司にお願いをしまして、ドリルという会社の企画書を提出して、運良く会社が出来たという感じですね。

望月:そこから破竹の勢いで様々なキャンペーンを手掛けていくと。

原野:いえいえ。笑

【楽曲紹介1:思い出のCM音楽】
望月:ここで一曲、「思い出のCM音楽」というのを選んでほしいのですが、どんな曲を?

原野:今回は「愛のプレリュード」という曲を。多分皆さん誰もが知っている曲で、カーペンターズの曲なんですけど、今回は別の人が歌っているので、それを。

望月:これはどういうお話があるんですか?

原野:これは元々CMの曲ということだったんですよね。カーペンターズの曲がヒットしたからそれを使おうということではなくて、CMのための曲という事で、当時まだB面作家だったポール・ウィリアムズとロジャー・ニコルズという人が作って、作詞家のポールが自分で歌っているというものです。それがクロッカー・バンクという銀行のCMに使われたんですね。

望月:海外のCMですか?

原野:そうです。そのCMが流れたら、田舎の銀行なんですけど若者がいっぱい集まって来ちゃって、銀行が動かなくなったという伝説がありまして笑 それを見たリチャード・カーペンターが電話をしてきて、「これ、フルコーラスはあるか?」と。もうB面作家から脱出する最大のチャンスですよね。なんといってもカーペンターズからの電話ですから。そこで、フルコーラスは出来てなかったんですけど「もちろん」と。そこから伝説が始まると。広告の音楽と言うと、日本だと割とヒット曲を使うというのが多くて。勿論オリジナルもあるんですけどね。広告のオリジナルの音楽がゴールドディスクになったというのが良い話だなと思いまして、この曲を。

望月:では、曲紹介をお願いします。

原野:はい。「愛のプレリュード」。ロジャー・ニコルズ&ポール・ウィリアムズ。


望月:本日のツタワリスト、クリエイティブディレクターの原野守弘さんをお迎えしています。この曲、やっぱり原曲な感じがすごく出ていますね。

原野:この感じ、業界的には「いなたい」って言うんですかね 笑

望月:やっぱり洗練されて売れていくっていうね 笑 その過程が聴いていて非常に面白いですね。

【伝わるとは何か】
望月:本日はツタワリストということでお迎えしているのですが、コミュニケーション、特に広告をやっていると、当然そこにはクライアントがいて、お金を出してくれて。で、媒体と言うメディアがあって、そこに乗っけることは普通に出来るわけですよね。つまり、いわゆる「伝える」ということはある意味簡単に出来てしまう。それが人々の心の中に「伝わる」という瞬間というのは、どういう瞬間なのだろう?ということを考えていきたいのですが。まず最初に、原野さん的に「伝わった」と思う経験にはどういった経験がありますか?

原野:そうですね。2005年にサムスンというクライアントで「AnyFilms」というキャンペーンをやりました。このキャンペーンはウェブ上のキャンペーンなんですけれども、対象地域がヨーロッパとアメリカの英語圏ということでした。そこで、インタラクティブフィルムっていう自分でストーリーを組み立てられるウェブサイトを作ったんですね。一万一千通りぐらいの物語が出来るんですけれども。

望月:それは自分で結論まで作れるんですか?

原野:結論では無くてですね、登場人物と物語のエレメント、例えばピストルとかパンティーとかありますが、そういったものをマップの上に置くんですよ。ちょうどオセロの駒を置くように。その駒の置いた形によって物語の波形が出来て、サインカーブのようなものが出来るんですけど、それに合わせたムービーが出るという。このキャンペーンは今で言うとバイラルやバズという手法になると思うのですが、当時はそういった言い方が定着していませんでした。で、サイトを作った後、広告とかもあまりしないで、アルファブロガーという有名なブロガーの方達に「こういったものを作りました」というメールを50通送ったんですね。

望月:そのアルファブロガーを知っていたんですか?


原野:それはね、アルファブロガー屋がいるんですよ 笑
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望月:そういったものが、その当時もあったんですか?

原野:ええ。でも、ちょっと怪しい会社で笑 アルファブロガー50人にメールを送るのに300万だよ、みたいな。本当に大丈夫かなあ?とは思いながらも、大抵のお金をほぼ制作費に割り振ってしまっていたので、やろうと。

望月:それは海外のアルファブロガーですか?

原野:そうです。全部海外の話です。で、50人にメールを送りまして。その人達は当然ブログに載せてくれるわけですよね。人によっては凄く良いって書いてくれたり、事務的に書く人もいるんですけど。そして、50個のブログに載ったものを1週間後に検索して数えたら、今度は1000サイトぐらいのブログに載ってるわけですよ。

望月:1週間で。

原野:そうですね。さらに4週間後、最後の週に検索したら10万サイトのブログに載るみたいな。今だったら、twitterとかあって、RT(リツイート)で自分で見れたりするじゃないですか。でも、当時はそういったものが無くて。単純に毎日検索してたら、どんどん検索結果が拡がっていくっていう。それはリアルに人と人とで向き合って「あ、この人泣いてる」というような伝わり方では無いんですけれども、世の中に浸みこんでいく感覚というのが割と毎日検索していくたびに分かるというか。それが面白かったですね。読むと、それはコピーでは無くて、載せた人が一言「自分はこう思った」とか書いてくれているわけじゃないですか。そのキャンペーンは僕がやった一番最初キャンペーンだったんですけれども、それが僕にとってはすごく思い出に残っていますね。

【キャンペーンのプラニングの方法】
望月:そういったキャンペーンでは、やはりインターネットを核としたキャンペーンをプラニングしていくんですか?

原野:それはお題だったんですよ。ヨーロッパやアメリカのテレビとかあまり見なくて、インターネットばかりやっている若い子をターゲットにしたいというのがお題でした。今は「創造的な問題解決」と言っているんですが、広告を作ったり、コミュニケーションデザインをするというよりも「問題を解決する」というスタンスで仕事をしてまして、その解決策がインターネットである時もあれば、そもそも広告とか止めて商品のデザインそのものをやり直した方が良いですよっていう事もあれば、新しい流通チャネルをこういった風に設計すれば解決になりますよって言う事もあります。そういった意味では手段を選ばずと言いますか。

望月:そうなると、経営コンサルティングの領域に入っていきますね。

原野:経営コンサルティングがどういうものかにもよりますけれども、問題解決という意味ではかつてはボストンコンサルティングとかマッキンゼーとかそういった企業の独壇場だったと思うんですけれども、我々はクリエイティビティという武器を持って、そういった会社には出来ないことをやっていこうという事で仕事をしていますね。

【海外のクリエイターとの仕事とは】
望月:海外のクリエイティブな人と仕事をしていくという点に関して、ポリシーのようなものはあるんですか?

原野:これは最初の賞の話と同じなんですけれど、単純に日本のクリエイティブの人に相手にされないという。そういった不遇の時代があって。でも海外だと、僕が日本の無名のCD(クリエイティブディレクター)であっても、こういった事をやりたいんだというとやってくれるアートディレクターがいるわけですよ。かなり一流の人が。日本だとそこにたどり着くまでに「誰だ君は」みたいな。まあ頼んだらきっとやってくれただろうと今にして考えるとそう思うんですけど、始めたばかりの頃は自分は委縮していて。「まさかおれの企画を山本高史さんには頼めないよな」とか。そういうのってあるじゃないですか。「水口さんには頼めないよな」とか。だから、海外の方がやりやすかったんですね。単純に。サイト見て、この人良いなと思ったらメール送るみたいな感じで。

望月:それはインターネットならではのやり方ですね。

原野:そうかもしれませんね。確かに。

望月:他に海外のアーティストの方とコラボレーションした事例ってあるんですか?

原野:結構ありまして。先程のは海外がマーケットだったんですけど、日本がマーケットのものですと例えば有楽町のマルイのローンチのキャンペーンとか。その場合ですと、写真をニューヨークの写真家の人に撮ってもらったり、デザインをニューヨークのデザイナーにお願いしたりとかしてますね。結構普通にやってますね。

望月:すると会話は英語で全部?

原野:そうですね。だから上手になりましたよ 笑 別に帰国子女とかそういうわけじゃないんですけど、仕事でやると覚えますよね。

【キャンペーン設計で一番大切なこと】
望月:キャンペーンを作る上で、原野さんが一番大切にしている事って何ですか?

原野:僕はやはり問題解決ということで仕事をしているので、「本当にそれが問題なのか」というのを一番大事にしてますね。

望月:本当に問題なのか、というと?

原野:例えばクライアントの方がブリーフで書かれている課題って合っていないことが多いんですよ。

望月:合ってないんですか?

原野:合ってない。例えば、それを課題にしたいと思っているとかね。或いは他に課題があるんだけれど、それを見ないようにしている。また或いは、その課題は広告には解決できないだろうから、ブリーフには書いていないとか。そういったことが多いわけですよ。でもそういった形式で広告を作っても、解決にならないんですよね。問題自体が違うから。解く問題間違えちゃったみたいなことになる。僕はそういったことがすごく多い気がしていて。なので、僕はブリーフが来たときは、別に疑っているわけじゃないんですけれども、すごく話しますよね。クライアントと。

望月:なるほど。

原野:本当の問題はそれなんですか?本当は何がしたいんですか、ということですね。

望月:やはり相手も問題に気づくんですか?

原野:そうですね。今は広告業界も成熟しているから、ある種定型化しているといいますか。「キャンペーンというのは、こういうものだ」という。そういった感じがあるんですね。キャンペーンのオリエンはこういう感じで、キャンペーンのプレゼンはこういう感じで、と。何となく皆その枠組みの中で、その事自体を問わずに仕事をしている事が多い気がしていて。本当は世の中はどんどん動いているから、全然違うやり方もあり得るわけじゃないですか。そういったことを虚心坦懐にやるというのが、自分の仕事のやり方としては特徴的かなと思います。

望月:すると、経営のトップの方と話す事も多いですか?

原野:ありますね。最初からそういうわけではないのですが、段々とそうなるんですね。最初は宣伝部長さんと話すんですけど、話してみると宣伝部長さん自身が「宣伝って駄目かもしれない」と思っている事も多いんですよ。「どれだけ宣伝やってても、おれは役員にはなれないかもしれないな」とか。そういう時、僕はよく「宣伝部長の野心になれ」と言っているんですが、例えば僕が持っていった新しい商品の企画とかパッケージデザインのプランを野心を持った宣伝部長が目をきらきらさせて見るんですよ。「これを成功させれば、おれも一つ上にいけるぞ」みたいな。すると僕をすぐに役員会とか取締役会に連れて行って、社長にプレゼンをしてくれと頼まれたりするようになるんですよね。そういう風になると、宣伝部の人とも仲良くしながら経営のトップの人とも話が出来るようになるので、スピードが早いですよね。やっぱり社長は全部を決めれるので。

望月:そういったスピード感は大事にされているんですか?

原野:スピード感は僕は結構大事にしていますね。

望月:それはやはり今のインターネットの環境がそうだからという?

原野:いや、それには限らないですね。多分、僕は「効率」というものが好きなんですよ。効率を良くしたいというのをすごく思っていて。僕はクリエイティブの世界の中では外側から来ている人なんですけれども、本当に(クリエイティブの世界は)効率が悪いんですよ。徹夜してやらなきゃ、みたいな。それはやっている人たちの能力が低いからではなくて、システムとして効率が悪くなっちゃっているからだと思うんです。プレゼンとかも基本的にリスクヘッジが最大の関心事みたいになっちゃうから、A案、B案、C案と……笑

望月:ふふ。笑

原野:それだけならまだしも、時にはさらにその上にAチーム、Bチーム、Cチームと。3×3で9案か……みたいな笑 そういったものを、徹夜してクリエイティブの人は作るわけじゃないですか。その時間があったらクライアントと問題についてよく話し合って、解決策を振り幅自由にやっていった方がお互いにとっていいだろうと。あんまり残業してとか徹夜してとか、そういったことをしたくないんですよね。

望月:でもそれは競合がいないとかクライアントからの信頼が非常に厚いといった状況でないと、中々難しいですよね。

原野:そうですね。だから僕が「プレゼンでドリルは一案しか出しません」とか「商品デザインを一からやり直すような案を出します」とか言うと、営業は慌ててBチームとかに駆け込もうとするわけです。「原野さん、止めてください!」と笑

望月:ははは。笑

原野:「意味ないから」とは言うんですけどね。そういった意味ではまだまだ過渡期ですね。

望月:なるほど。

【楽曲紹介2】
望月:さて、この辺りでそろそろ次の曲を紹介していただきたいと思うのですが。
原野:はい。では、「街が飛んでいくよ」。「くうきの組曲」というアルバムよりお聞きください。
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望月:この曲は原野さんご自身で作詞作曲されているんですね。

原野:そうなんですよ。すみません、本当に 笑 

望月:すごいですね。元々、作曲家やミュージシャンをおやりになっていたんですか?

原野:いやいや。中学生ぐらいから好きでオリジナル曲とかは作っていたんですけど、大学生の時に、豊島圭介という「ソフトボーイ」という映画を作ったりしている映画監督で、小学生の頃からの親友がいまして、その彼が映画を撮り始めたんですね。その映画に音楽を付けてほしいということで、大学生の時に割とちゃんと作るようになりましたね。まあ、大学生の時だけですけど。会社に入ってからは、遠ざかっちゃっていたんですけど。

望月:そして、この曲のアルバム……というよりも写真集といいますか。写真集がアルバムジャケットになっているんですかね。

原野:そうですね。

望月:どうしてまたこんな立派なものが出来ちゃったのかを聞きたいのですが 笑
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原野:これはですね、僕が「Idea meets music」というプロジェクトをやろうと思いまして、その第一弾的な位置づけとして作ったものなんですね。きっかけとしまして、やはりiPodとかああいったものが出てきたことによって、ミュージシャンの人も何だか「データ」を作る人みたいになりつつあるな、と思ったんですね。勿論、ライブもやったりするとは思うんですけど。それが音楽好きとしては切ないなと。コピーをされたりとかね。あと、昔はレコード屋さんに行くと人が並んでいて、ちゃんと30センチ角ぐらいの箱に接しながらレコードが選ばれていくようなモノや時間としての魅力があったのが、タワーレコードに行くとABC順に5ミリずつ占有しているみたいな。何だか、音楽を人に届ける「届け方」というのが段々と切なくなっていって、最後究極のところまで行っちゃったなと。実際、ミュージシャンの人が困っているというような話も出てくるじゃないですか。

望月:そうですね。

原野:そこの問題解決を、広告マンとしてクリエイティブを通じてやっている人間として出来たら素敵だなと思ったんですよ。本当にピュアにそう思って。そういった事をこれまで話に出てきた一緒に作ってきた写真家やアートディレクターの人に話したら、「いいね」と。やっぱり、クリエイティブをやっている人は皆音楽が好きなんで。その中で、あるカメラマンの人が自分の本を作りたいと。それならば、ファッション写真集+音楽CDのようなものを作って、それを美術館のミュージアムショップで売るというのをやってみようと。そういった経緯で作り始めたものですね。

望月:なるほど。中には(ページを開く)これはアンデルセン童話ですか?

原野:はい。作品の背骨となっているのが、アンデルセン童話の1シーンです。全部で12個の話に、それぞれ作品をイメージした写真があって。そして、最後にCDが付いているという感じです。

望月:これを書店とかで売ってるんですか?

原野:一番簡単に買うことが出来るのは、Amazon.comですね。後は雑貨屋さんとかですね。雑貨屋さんのように、人が「気分」にお金を払ってくれるところって結構あるなと思って。そういったところで音楽が人の手に渡っていくことで、買う人も楽しめるし、ミュージシャンの人にとってもそういったことは面白いだろうと。後はお金にもなるかもしれない。そういったことを考えてますね。

望月:なるほど。気分で買うというのは、広告にも通じる部分がありますよね。

原野:そうですね。

望月:実際にこういった作品を出してみて、周りの反応はいかがでしたか?

原野:実はあまりプロモーションが出来ていなくて。もう「ああ、作った……」みたいな感じで 笑

望月:アーティストってそうですよね。作ったところでパワーを使いきっちゃう笑 その先が中々ね。

原野:ええ。だから今日もこの場を借りて宣伝させてもらおうかと 笑

望月:増田結美さん「くうきの組曲」。

原野:はい。「くうきの組曲/Air Suite」絶賛発売中ですので、是非お買い求めになっていただきたいなと。

望月:是非是非、お願いします。

【今後の活動】
望月:これからのドリルや原野さんご自身の活動というのは、今後どのように進化をしていくのでしょうか。

原野:そうですね。一つは今やっていることというのは、新しい形であるのかなと思っていまして。広告というのは一つの分業であると僕は言っているのですが、分業というのは環境が変わることで移ろいでいくものです。広告という産業が出来たわけですよね。全盛期の中盤ごろに。段々とそれが形が変わっていったときに、今度はどんな形になるんだろうというのをすごく考えています。一個は……大丈夫かな?放送しちゃって。大丈夫か笑。一つは「ゴミのために、ゴミを作るな」ということです。

望月:「ゴミのために、ゴミを作るな」

原野:ええ。「無駄のために、無駄を作るな」ぐらいの方が、表現としては柔らかくていいかもしれませんが。例えば、クライアントさんの側から来る商品のブリーフとかが、正直に言って「え、これ売れないだろ」っていうような物だったって事はよくある訳ですよ。でもそれを今までは広告会社は見て見ぬ振りをして広告を作っちゃえば、広告作ることでお金もらえるし、流すことでお金もらえるしみたいなことだったと思うんです。でも、それは結局無駄のために無駄をもう一個作ってるようなところがあって、僕の効率を愛する美学とは異なる部分があるんですね。そこで、「もう一回この商品を考え直してみましょう」というようなことをやってるんですね。そして、それは結構手ごたえがあって。実際そのようにして出来たものがお店に並んで、お客さんが手に取られていくのをクライアントさんと一緒に見ることは、やっぱり楽しいんです。そういうことがやりたいんです。そしてそれを日本でもそうなんですが、海外でもやりたいなと。例えば、中国とか。今は中国に行くと、何だか偽物みたいなものしか無いじゃないですか笑 でもやはり段々と洗練が求められていくときに、「あなたはスティーブ・ジョブズでは無いかもしれませんが、私たちが手を貸すことでスティーブ・ジョブズのようになれるかもしれません」みたいな感じで社長を口説いて、今はiPadの偽物でaPadなんてのを作ってる会社でも、手を貸すことでその会社が本当にiPadを超えるものを作ってきたら、それはすごいじゃないですか。そういったものが作られるその裏には僕たちがいると。そういったことがやりたいですね。

望月:中国はやはり興味がありますか?

原野:中国は、単純に今が良いタイミングだと思うんですよ。人間の人生って出会いのタイミングがあるじゃないですか。僕は来年40歳なんですけど、これからまた色々な仕事が出来るぞというタイミングと一番合っているマーケットが多分中国のマーケットなんです。日本の70年代や80年代みたいな感じと言うんでしょうか。舶来の物しか無かった時に段々と、日本のお菓子だったらカルビーとか食べ物だったらカップヌードルとか日本のメーカーの物が出てきて、それが30年40年続いているわけじゃないですか。そういったことが中国でも今まさに始まろうとしている。中国には今は偽物と舶来の物しか無いんですけど、多分彼らのアイデンティティとなっていくブランドが今後10年ぐらいで出揃うはずなんですよね。だから、それをやっていくのはすごく良いなと思ってます。まあ、勿論ヨーロッパやブラジルなんかも興味はあるんですけど。ただ、近いし笑

望月:なるほど笑 ブラジルなんかは行ったことあるんですか?

原野:ニチレイさんの商品で、今はサントリーになっちゃったんですけど「アセロラドリンク」のパッケージデザインをやったことがあって、その撮影で行ったことがあるんですけど、すごく良かったですね。僕はすごく沢山出張してるんですけど、一番ほかの人に勧める街はリオデジャネイロですね。音楽も全然種類の違うものが流れてまして。

望月:すると、今後ますます世界に羽ばたいて、新しいクリエイティブを是非作っていただけたらなと思います。本日のツタワリストはクリエイティブ・ディレクターの原野守弘さんでした。どうもありがとうございました。

原野:ありがとうございました。

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