Interview_sawamoto of Communication Design Lab 望月衛介・音楽と広告

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澤本嘉光 (エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー)

【表現への思い】
望月:澤本さんは、昔からCMを作りたいとお思いだったのですか?
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澤本:高校生の頃から「なにか表現がしたい」と思って、日々悶々していたんです。高校生の時に森田芳光監督の「家族ゲーム」という映画を見たんです。その映画は文芸作品っぽくて、これまで見てきた映画とは全く違ったんですね。
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ATG(映画)だったのですが、「こういったものに携わる仕事がしたいな」と思って。同時期に原田知世さん主演の「時をかける少女」という「家族ゲーム」とは真逆のアイドル映画もあったのですが、これもこれで良く出来ていて。
「これは映像(の世界)はいいな」と思うようになったんですね。しかし、残念ながら僕は昔から通信簿に「集中力に欠ける」と書かれるような子供で。映画となると、二時間なので辛いなと思ったんですよね(笑)そんな時に、サントリーのウイスキーのコマーシャルで詩人のランボオを扱った作品を見たんです。そのコマーシャルがすごくかっこよくて。

「60秒でこんなにかっこいい世界を作ることが出来るなら、集中力の無い僕にぴったりだ!」と、コマーシャルの世界に凄く興味を持つようになりましたね。

望月:澤本さんは東大にお進みになられたんですよね。映像と言うと、日芸などに進学される方が多いと思うのですが。

澤本:僕は本に書かれていることを信じやすい性格なんです。ある本に「コマーシャルを撮るなら、早稲田の政経学部か上智か東大の文学部に進め」と書いてあって、「そうなのか!」と思ったんですよね。あと、ウチの親が昔からアメ横や秋葉原に行く時に、今はもう出来ないのですが東大の構内に違法駐車をしていて(笑)だから、僕は子供ながらになんとなく東大に愛着があって「大学受けるなら、まずはここだ」と勝手に思っていて。それで東大を受験して、入学しました。

【コピーライティングから学んだこと】
望月:大学卒業後は電通に入社されたんですよね。

澤本:色々な会社に落ちながら、なんとか電通に入れて頂きました。

望月:配属はいかがでしたか?

澤本:クリエイティブ局に配属になりました。ただ、僕はCMプランナー希望だったのですが、まずはコピーライターとして働く事になったんです。その時の局長の方針が「新入社員はまずコピー」というものだったみたいで。だから、最初はすごく嫌だったんですよね。高校生の時に「なにか表現をしたい!」と思い立ってから、ついに6年も経ってしまったので「この遅れを取り戻さなくては!」と焦る気持ちがあったので、すぐにでもコマーシャルを撮りたくて。
ただ、事前に「一年後の四月には、(配属になった)三十人中、十人にクリエイティブから出ていってもらう」と脅しがあったので、「これは嫌だとか言ってる場合じゃないな」と思って、まずは必死にコピーを勉強しました。

望月:その当時はどのようなコピーをお書きになっていたんですか?

澤本:せっかくコピーを書くならば、糸井重里さんや眞木準さんのようなコピーを書きたいと思っていたんです。だから痔の薬のコピーを書く時なんかにも、ところかまわず「おいしい生活」のようなコピーを書いていたら、上司には「お前、バカじゃないか」と叱られてしまって(笑)。「おかしい。僕のステキなコピーが分からないなんて」と内心思っていたら、どうやら僕の書くコピーはまったく周りの人に伝わっていなかったようで。「これはまずいな」と思いましたね。
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そこで、自分が納得するというよりは「相手はこういうコピーを書いたら喜ぶんじゃないか?」という事を考えてコピーを書いてみたら、相手は「うまいね」と喜んでくれたんですよね。
商品の特性を言い換えたり、商品がより良く見える言葉が「コピー」なんだとその時に気がついて、その年の後半ぐらいからは実際にコピーが採用になったりしだして「面白いな」と感じるようになりましたね。

望月:するとその時には既に、「自分がやりたい事はこれなんだけれど、相手が求めているものはこれだから、こう」といった具合にアジャストしていくような感覚があったんですね。

澤本:アジャストしていかないと、自分はここにいられなくなってしまうという不安感がありましたね。相手に認められるものでないと、自分は単に「書いている人」で、作るものも独りよがりなものになってしまう。そんな状況から早く抜け出さないと世の中に(作品を)出せないなという気持ちでしたね。

【楽曲紹介1】
望月:このあたりで、思い出のCMソングをご紹介頂けますか?

澤本:CMソングが僕は大好きで、ここでは紹介しきれないぐらいなのですが(笑)。その中でも大好きなのが、大滝詠一さんが作詞作曲して、歌った日清「出前一丁」のコマーシャルソングですね。ちょっとそれをかけてみたいと思います。

#1大滝詠一 日清「出前一丁」CMソング


望月:これはもろに大滝詠一節ですね(笑)

澤本:曲はナイアガラ・トライアングルなんですが、歌詞はゴマがどうのこうのと(笑)大滝詠一さんの曲は大好きで、大学生の頃にはよくドライブで聴いてましたね。

望月:せっかくなので、もう一曲ぐらいご紹介頂けますか?(笑)

澤本:では少し長めの曲で、山下久美子さんの「赤道小町ドキッ」を。「赤道小町ドキッ」って言葉自体がコピーですよね。作曲が細野晴臣さんなのですが、やはり細野さんの楽曲は素晴らしいです。

#2 山下久美子「赤道小町ドキッ」


【“変なもの”をつくる】
望月:コピーライターからその後、CMプランナーに澤本さんはなられますよね。一番最初に手がけられた作品はどのようなものでしたか?

澤本:会社の先輩と一緒に「ケイコとマナブ」という雑誌のコマーシャルを作ったのが最初でした。僕にとっては出来た作品そのものよりも、それを作る過程が印象に残っています。なにしろ、自分の考えたアイデアを「ほめてもらえる」という経験がそれまで全然無かったので。
「ケイコとマナブ」のコマーシャルの打ち合わせで、僕は「これ大丈夫かな?」というようなすごく変なアイデアを持っていったんですね。すると、その時のクリエイティブ・ディレクターの人が「これ、変だね!」と喜んでくれたんです。「変なもの」を喜んでくれる、不思議な会社に自分は居るんだなあということをその時初めて実感しましたね。それまでは自分が「合わせていく」感覚だったのが、今度は「もっと変なもの考えてこいよ!」と言ってくれる変なオジサンがいると(笑)。ステキな会社だなあと思いましたね。

【佐々木宏さんから学んだこと】
望月:澤本さんは佐々木宏さんともご一緒されていますよね。

澤本:佐々木さんは僕よりも12歳ぐらい年上の方なんですね。ところが、僕よりも一生懸命なんですよ。打ち合わせの場でも、面白いことからつまらないことまでどんどん発言していくんです。全部の仕事に対して、あれだけ色々考えていたら気が狂っちゃうんじゃないかと思うぐらいに本当に一生懸命で、そこは凄く尊敬しています。
もう一点、佐々木さんがすごいのは、視線が明らかに「町のおばさん」なんですよ。僕はそれまで紙の上で企画が完璧ならば、それは完璧だと思っていたんです。だから、タレントが誰であろうとあまり関係なくて、カッコよく言うと「ノンタレントの企画」が好きだったんです。むしろ、タレントを指定されると、クリエイターの見栄もあって「いや、この人は俺の考えていた世界観と合わないからさ」みたいなことを言いたくなってしまったりするんです。
ところが佐々木さんは「テレビ見ている人は、ここをこういう風にしないと誰も喜ばないよ」とズバズバ言うんですよね。僕が元々タレントを起用するつもりが無かった企画でも、「これ面白いから木村拓哉くんに頼めないかな?」なんて言うんです。僕が「いや、この企画はノンタレで」と言うと、「ノンタレなんて言っている時点で駄目だ」と言われたりして(笑)。やっぱりテレビを見ている人はカッコいい人を見たいし、あまりカッコよくない普通の人の生活でも木村拓哉さんがそれを演じてくれたらもっともっと皆が喜んでくれる。そういった僕にあまり無い目線を佐々木さんは持っていて、次々僕に与えてくれるんですよね。半ば押しつけでもあるんですけど(笑)。
でもそれは嫌じゃないし、「こういうのもありなんだな」と思います。実際、佐々木さんと仕事をするようになってから、タレントさんを使うCMの仕事がいきなり増えて、たくさん本数を作るようになりました。それまでは一本一本のCMが完璧じゃないと嫌で、一カ月に一本か二本しかCMを作らないような「寡作な作家」だったのですが、佐々木さんは次々と作品を作るんですよね。確かに次々と作品を作り続ける方が頭がよく回るという面はあって、佐々木さんが僕にそういう頭の使い方をさせてくれているなと思います。強制的にやらされないと、僕は自分ではそういう頭の使い方は絶対にしないんですよね。自分ではしないような発想を佐々木さんが僕に与えてくれているという気持ちはすごくあります。

【“伝わった”と感じた企画】
望月:この番組のテーマは「伝えることよりも、伝わること」というものなのですが、澤本さんは「これは伝わったな」と手応えを感じた作品はありますか?

澤本:この番組は若い方が聞いていると思うのでご存じないかもしれませんが、日本国際通信株式会社(ITJ)という今は無くなってしまった会社の「0041」の国際電話のコマーシャルですね。

田村正和さん演じる零々四一というベタベタなキャラクターが色々なところで名刺を配りまくるというコマーシャルだったんですが、自分としては「ちょっとベタすぎるかな?」と思っていたんです。結局「名前がおもしろいし、まあいいか」ぐらいの気持ちで作ったのですが、実際に後で見直してみると自分で見ても面白かったんです。世の中の人は、僕が思っているよりもベタで「ここで笑ってくださいね」という分かりやすいポイントがあるものを望んでいるんじゃないかと言う気がしましたね。その事を、初めて経験として感じたコマーシャルでした。

【ソフトバンクのCMの裏側】
望月:澤本さんはソフトバンクモバイルの大ヒットコマーシャルを手がけていらっしゃいますね。この企画にもやはりものすごい産みの苦しみがあったのではないですか?

澤本:ものすごく長い話になりますね(笑)お兄ちゃんが何故、ダンテ・カーヴァーさんという外国人の方なのかとか、何故お父さんが犬なのかというのは、その場の僕の思いつきで決めているだけではなくて、一応前提条件があった上で考えられているんですよ。ソフトバンクのコマーシャルを始めて作った時に出ていた外国人の方が、ダンテ・カーヴァーさんだったのですが「ダンテさんを、もう一度使ってみてはどうか」というのは、実は家族のキャスティングの際に孫(正義)さんが仰ったことなんです。

#「流しのAyu」編


#鍋パーティー編


#お兄さん遅刻する編


あと、家族のコマーシャルの前には犬同士が会話をするというコマーシャルを流していて、これも評判が悪くなかったんですね。この犬をどこかで使えないか?というのも孫さんが仰っていたことでした。
その時に「お兄さんが外国人で、お父さんが犬の家族もののコマーシャルを作ったら、絵だけでも相当面白くなる」と思ったんですね。それに、お父さんが犬と言うのもなんとなく共感が呼べそうだなと思って。実際にコンテを作ってみても、絵を描いていてかなり面白かったので「これはいけるぞ」と思って提案させて頂いたんです。

望月:出来た瞬間には、かなり手応えがあったのではないですか?

澤本:企画そのものも面白かったのですが、演出を手がけてくれた山内健司さんという監督の方の力がものすごく大きかったですね。山内さんが一本目のコマーシャルからすごく良い世界観を作りだしてくれたので、これだけの長寿コマーシャルになってのではないかという気がします。

【Friend-ship Project誕生の舞台裏】
望月:澤本さんは電通内でテレビ局のセクションを兼務され、テレビ東京と共同で「Friend-ship Project」を展開していらっしゃいますね。これはどのようなプロジェクトなのでしょうか?

#Friend-ship Project 第一弾「60秒の友情編」


澤本:1990年代の後半に海外の広告賞に行った時、海外の人と電通の名刺を交換するのが実は嫌だったんです。クリエイティブの人間が600人で、メディアと営業の社員が6000人と言うと海外の人は「クリエイティブの会社じゃないじゃないか!」と鼻で笑うんです。その事が、すごく腹が立つと同時に恥ずかしかったんですね。
ところが、2003年頃に別の広告祭に審査員として行った時に同じことを海外の人に言うと、今度は「うらやましい」と言われたんです。「メディアを持っているということは、企画にメディアを組み込めるということだ。表現だけしている場合じゃないよね!」と言われて、なんだか一周遅れで自分が最先端の会社に勤めているような感じになったんです。せっかく(電通の)強みに気が付いたのならば、それを活かすような企画を社内で提案していこうと思ってテレビ局のセクションを兼務する事にしたんです。
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すると、クリエイティブ局とテレビ局のセクションでまったくコミュニケーションが撮れていないという事に気が付いたんですね。例えば60秒のCMを作ろうという企画一つとっても、クリエイティブの人間は「枠が無い」と思いこみ、一方でテレビ局のセクションでは「作れる奴がいない」と思いこんでいたりとか。そういった事を目の当たりにする時に、会食をする機会があったのがテレビ東京の方だったんです。その方に「15秒では表現が難しいことでも、60秒や90秒あれば表現の幅が一気に広がるし、目立つし、面白い。そういったエモーショナルな表現は一社では難しいけれど、合同という形では出来ませんか?」という事を提案したところ、相手の方がスキームを作ってくださって、実現したのが「Frined-ship Project」です。普段、コミュニケーションを取る事が出来ていない人達が集まることで生まれるものというのはまだまだあるという気がしますね。

【楽曲紹介2】
望月:このあたりでもう一曲ご紹介頂けますか?

澤本:相当コアな曲になってしまうのですが……(笑)。1991年に発売されたチャカと昆虫採集と言う
ユニットの「うたの引力実験室」をいうアルバムに収録されている平浩二さんの「バスストップ」のカバーを是非、聴いて頂きたいと思います。

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【映画の脚本作りと広告制作の手法】
望月:澤本さんは映画「犬と私の10の約束」の原作と脚本を手がけられていますね。脚本って簡単にできるものではないですよね?

澤本:元々、脚本を描いてみたいとは思っていたのですが勉強をしたことも無かったですし、自信が無かったんです。そんな中、松竹のプロデューサーでCMから転身して映画の世界に入っていった知り合いの方が僕に「犬の十戒」というインターネットのサイトのプリントアウトを手渡して、「これでオリジナルを書いてみて」と言ってきてくれて。そこでストーリーを書いてみたところ、「面白い」と喜んでもらえたんです。
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普段は15秒や30秒のストーリーを考えることしかないので、長いストーリーを書いて喜んでもらえるのは嬉しくて。「単館映画か何かになるといいな」と漠然と思っていたら、全国公開の映画になる事になったんです。ところが元々僕が書いたストーリーには、犬がストーンサークルのまんなかで宇宙と交信するようなSFっぽい要素があって(笑)。そこで、映画にするに当たって「もっと純粋な話にしましょう」ということになったんですね。脚本を直す作業って、広告を作るのと似ているんです。
このメッセージを伝えるには、この箇所を強調しないと駄目だとか、そういったパズル解きを広告を作る時にはする訳ですが、僕は映画の会議の時にそれと同じことをやったんです。模造紙を広げて、「ここまでの脚本はOKで、ここが問題ですよね。ここを解決するには、この箇所と繋げて……」といった具合に話をしていったら、「こんなにポジティブな脚本家の方は初めて見ました」と言われました(笑)メッセージを伝える手順を纏めていく、広告でよくある作業を僕はしただけなんですけどね。このシーンが使えないのなら、このメッセージを伝えるためにこのシーンの会話を面白くすると良いですよというような事を提案していったら、すごく重宝されましたね。
CMを作る中で自然と培われる問題解決能力ってあると思うんです。メッセージを伝えるために、そこにある問題を解決して、もっと面白くしていくという知恵の輪を解くような作業が広告です。そういった頭の働かせ方を他のエンターテイメントにも応用していく事が出来たら、すごく良いなと思いましたね。広告を考えるってすごく辛い作業なんですけど、他の方が中々使わない頭の部分を使うので、同じ課題を考えるときでも他の人が考えつかないような答えを出せる可能性があるんですよね。

【電通という環境】
望月:澤本さんが電通に居続けている理由というのは、どのようなものなのでしょうか?

澤本:他の人が見ていないと僕はサボるんですよ(笑)。誰かが見ていてくれないと、駄目なんですよね。あと、会社に勤めるサラリーマンの姿をカッコいいと僕は思っているんです。会社に勤めながら、自分なりに良いパフォーマンスをして、自分なりの生活をしていく。そういった事が良いなと思う、甘えた考えがあるんですよね。それと、昨今メディアが次々と変化していく中、今は専門のプロがいる環境で色々と聞く事が出来るんですね。もしも、独立をしていたらそんな時代の変化に着いていこうとも思わないと思うんです。mixiが流行ったと思ったら、facebookが出てきて、twitterの使い方がどうだとか。分からないと思ったら、若い奴に「教えてよ」とか聞けますし、一方で僕からはマスの考え方を伝えることが出来る。そこでの会話が盛り上がるんですよね。それは表現にも結び付く。昨年やらせていただいた東京ガスさんの「東京ガスストーリー」というのはまさにそうでした。

そういった環境がある限り、会社に居るのは良いなと思いますね。もっとも、偉そうなことを言っておいて明日会社を辞めろと言われたら「え!」とうろたえてしまうと思いますけどね(笑)

望月:これからも電通のクリエイティブを引っ張っていってください!本日のツタワリストは株式会社電通エグゼクティブ・クリエイティ・ディレクター、CMプランナーの澤本嘉光さんでした。ありがとうございました。

澤本:ありがとうございました。

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